気候変動をはじめ、様々なサステナブル課題が多様で複雑化している。しかし、その解決のためには、生活者の意識と行動の変革が喫緊の課題であることはまちがいないだろう。

生協とは、生活協同組合の略称であり、消費者一人ひとりが組合員となって参加し、利用し、運営する全国約3,000万人の協同の力で成り立っている。そこに「生活」という文字がある通り、その組織は組合員の暮らしと密接な関係にあり、大きな影響力を持つ。それはサステナブル課題についても同じことが言えるだろう。

ここでは組合員と全国の生協が力を寄せ合う、日本最大の消費者組織である日本生活協同組合連合会のサステナビリティ推進グループを訪ね、グループマネージャー新良貴泰夫氏にインタビュー。そのサステナブルな取り組みが生活者にどう連鎖していくか、を探った。

すべての取り組みが生活者の願いと期待から誕生

──2030年のSDGsの達成にむけ、策定された「コープSDGs行動宣言」。2018年に採択されたとのことですが、そこに至るまでどのような背景があったのでしょうか。

新良貴:生協は宅配事業や店舗事業など商品やサービスを提供する事業を行いながら、組合員の自主的・自発的な活動や社会貢献といった「活動」にも注力しています。そして、そのどちらも生活者の期待と願いから成り立っているのが特徴の一つと言えます。

たとえば戦後、メーカー主導の価格設定に対し、くらしを守る価格での商品が欲しいという消費者の想いが起点になって共同仕入れ事業が始まり、コープ商品が誕生しました。そして、こうした商品を求める消費者が集まり購入する共同購入事業が始まり、商品の常設の場所として店舗が登場します。

日本生活協同組合連合会 サステナビリティ推進グループ
グループマネージャー 新良貴泰夫 氏



最近は電力小売事業も開始しました。これも組合員が、再生可能エネルギーを使いたいという想いを受け止めて生まれたものです。ほかに福祉事業などもあります。

これは、先ほど述べた「活動」においても同様です。環境問題への対応や平和運動、子どもや高齢者、障がいをお持ちの方など社会で弱い立場の方を地域全体で支える地域づくりの取り組みなどがそれにあたりますが、こういった「活動」もすべて組合員の願いや期待から始まっています。特に環境分野に対しては早く、組合員は70年代から紙パックなどの資源回収や買い物袋(エコバッグ)利用運動を行っていました。そして、こういった取り組みが結実し、1997年に策定されたのが「生協の21世紀理念」です。それは「自立した市民の協同の力で人間らしいくらしの創造と持続可能な社会の実現を」という短い言葉ですが、生協の変わらぬ信条と未来への展望が凝縮しています。

最近でこそ、サステナブルという言葉は聞かない日はない程ですが、生協では1997年のこの理念ですでに「持続可能な社会」を掲げています。2015年に国連がSDGsを採択したからではなく、生協の成り立ちである組合員の自主性の中で環境問題に対応し、平和運動も展開してきたその想いが「持続可能な社会」という言葉に表現されていると思っています。 

その上で2015年に発表されたSDGsは、最初は欧文やカタカナでわかりづらい印象があったのですが、それぞれのゴールの中身を検証すると生協がこれまで取り組んできた内容と親和性が高いことに気がつきました。そして、生協としてこれまで培ってきた商品の開発や供給という事業面と社会づくり、地域づくりを通して微力ながらSDGsの実現に貢献していくという観点から策定したのが「コープSDGs行動宣言」になります。

ここで重要なのは宣言という形式を採用しているところです。3000万人の組合員を抱える組織が、できるだけ速やかに宣言することが社会的な機運づくりになると考えて、緊急的に日本生協連総会での特別決議という形でまとめました。生協として人権を大事にし平和を守り、環境問題や貧困問題へ向き合ってきた取り組みがあらためて7つ記され、その行動を宣言しています。

普段の行動の延長でエシカルな消費を

──2021 年にシリーズ化された「コープサステナブル」シリーズの評判はいかがでしょうか。また同シリーズの販売によって組合員のエシカルな消費行動にはどのような変化が見られたとお考えでしょうか。

新良貴:もともと組合員のほうから環境や社会に配慮した商品を選びたいという声がありました。しかし、それを応えることは容易ではありませんでした。生協としては第三者機関が認証し、そのラベルがついた「フェアトレード商品」や「オーガニック商品」、「エコ商品」を販売してきました。ただ、ラベルによっては一見して何の環境に配慮しているかわかりづらいものがあり、さらに商品が増えるとラベルも同時に増えていく中で、組合員としては選びにくいという意見を頻繁にいただくようになりました。そこで「海の資源を守る」「森の資源を守る」「大地の力を活かす」「リサイクル材使用」といったわかりやすくカテゴライズしたブランドをつくり、選択しやすいようにしたのが「コープサステナブル」シリーズです。

生協では商品の供給のみならず、たとえば世界中では海や森の資源が減少し、パーム油に関しては人権侵害の問題もある、だからこそ、エシカル消費が必要であるといった学習情報の提供も組合員へ行っています。その結果、徐々に浸透し、現在(2024年1月)、品目数は約230まで拡大し、考え方に共感していただく組合員も広がっています。基本的にサステナブルな商品だからと言って価格が高いというわけではありません。また、このシリーズの特徴は、マークをつけるために新たに商品を開発するのではなく、もともとコープ商品の中でコアになっている商品について、その主原料を環境や社会に配慮した第三者認証原料に切り換えることで、エシカル消費の推進を図っているところです。ですから、気がつけば環境や人権に配慮した商品を自然に購入していることになっています。普段の行動の延長にエシカルな消費ができる仕掛けになっているところが生活者本位の生協らしさだと思っています。

学びやアクションを起こすきっかけづくりを提供

──特設サイト上の5つのコンテンツを通じて、全国の生協とともに環境や社会問題について「知り」「学び」「アクションする」仲間を増やし、持続可能な世界の実現を目指す取り組みである「コープサステナブルアクション」は2023年から実施されていますが、組合員の考え方や行動を変える上でどのような成果があったと感じますか。

新良貴:総アクション数は昨年の5月から10月までで約32万件です。もともと10万件程度を目標にしていましたので想定外のいい結果だと思っています。5つのコンテンツの一つである「どこにある?サステナブル」では、「家の中」「外出中」「お店の中」といった身近なところでサステナブルな行動が起こせることに気づけ、「サステナブル博士の部屋」では「エシカル」「脱炭素社会」「循環型社会」「生物多様性」などについて小学生でも理解できるよう、わかりやすく解説しています。「いきものさがしクエスト」では、いきものコレクションアプリ「Biome(バイオーム)」をダウンロードし、ゲーム感覚で、出会った動植物の画像を投稿すると、地図上に表示されます。参加者が生物について学べるとともに、時期、地点、種名などのデータが蓄積されるので生物多様性の保全につなげていくことができます。「目指せ!サスシェフコンテスト」ではサステナブルを意識したレシピアイデアを投稿でき、入選レシピを紹介しています。「動画で学ぼう!SDGsのじかん」では環境やサステナビリティに関するテーマについて、専門家による講義などを視聴することができます。先ほどのアクション数が示すとおり、少なくともサステナブルについての学びや身近なアクションを起こすきっかけづくりにはなったと思っています。



身近で楽しく、気づきとシェアができる取り組み

──その名称の通り、消費者の生活と密接な関係にある生協ですが、生活者に対してサステナブルな事柄を理解・浸透、そして、行動に波及させていく上で重視しているポイントはどこにあるとお考えでしょうか。

新良貴:サステナブルな取り組みがどこか遠くにあるものではなく、身近なものであると感じてもらえるか、否かが大切だと考えています。そういった事柄を実践しようとするとどうしても身構える傾向があります。また、日常とは別にあると感じると、余裕があるときにやろうとか、あるいは詳しい人に任せようか、などと他人ごとになってしまいます。後回しにせず、自分ごとにしていくためには身近であることに加えてワクワク、楽しいことも重要だと思っています。

また、その理解・浸透が行動に変わるためには、気づきとシェアが必要だと捉えています。先ほどご説明した「コープサステナブルアクション」のコンテンツでは、サステナブルな取り組みが身近なところにあるということに気づいていただけるよう企画しています。さらに各生協では、組合員に対しエシカル消費などについて学習会やワークショップを開催しています。環境委員を務める組合員が自主的に企画することもあります。生協の学びの特徴は、こうして学んだ人たちが自分の得た知識や情報を周囲にシェアできる場を持っているところです。学び合い、広め合いができることで自分だけの学習で完結しないで地域に波及させていくことができています。組合員からしても、その場が普段利用している生協なので自然な感じで参加できるところも魅力なのではないか、と思っています。


──最後に今回、起きた能登半島地震ではどのような対応をされているか、教えていただけますでしょうか。

新良貴:日本生協連は、地震により被害に見舞われた地域に対して、発災直後より情報の集約や現地支援、行政からの物資支援要請に対応しています。1月22日に被災地域の災害ボランティアセンターや民間団体等と連携して支援活動に取り組むため、「コープ被災地支援センター」を設置しました。「コープ被災地支援センター」に専任者派遣を含めて全面的な協力と支援を行っています。また、全国の会員生協では引き続きコープいしかわへ、宅配同乗や宅配センターでの受電業務、のと北部センター(穴水町)配達希望者への商品案内を行い、支援を続けています。1日も早い復興を願い、引き続き現地からの要請などについて情報収集を行い、被災地域の皆さまのくらしの復旧に向けて支援活動に取り組んでまいります。