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いまや、人類は、「気候危機」と「民主主義危機」という2つの深刻な致命的危機に直面している。

気候危機は、干ばつや豪雨など自然災害の頻発化や激甚化、食糧供給へのリスク増など、世界中のすべての人々の暮らしをおびやかす喫緊の課題である。本来なら戦争よりも優先順位の高いはずの最優先問題である。

特にグローバスサウスと呼ばれている途上国では、脆弱なインフラや気候変動対策の遅れなどから、まさしく人々の命が危険にさらされている。洪水や水不足は、その流域での紛争の火種となりかねない。

主たる加害者は、他でもない、日本を含む先進国である。

すでに、日本は、遅ればせながら、2020年に「ゼロカーボン宣言」を宣言し、2050年までに排出量の実質ゼロにする約束を掲げている。これは、逃げも隠れもできない言い訳無用の、いわば世界公約である。

その世界公約の実現達成には、100%再生可能エネルギー化を目指すエネルギーシフトの完遂が急務であるが、しかし、はたして、その実際の進捗状況は、なかなか、はかばかしくない。

依然として、わが国は、こともあろうか、石炭と原子力に未練たらたら依然固執汲々としている。政府の打ち出す実際の具体的な政策を詳細に分析してみると、どれも中途半端で、残念ながら、そこに、日本の本気度のなさと、限界が露呈してしまっている。やってるふりだけでは困るのである。これでは、「羊頭狗肉」と批判されてもいたしかたない。このままでは、日本の将来は暗い。

加害者である先進国日本が、こうした気候危機に対する当事者意識を諸外国と共有ができるか否かは、わが国が、真の「気候正義(climate justice)」を持っているかに依る。これは、日本の信頼性を問うリトマス紙でもある。

はたして、日本に、この肝心の「気候正義」があるのか?はたして、いまの、日本の為政者と企業経営者は、真剣に、ことの重要性を「自分ごと」として認識し、7世代先の人類全体を含めた持続可能な安寧と幸福を念頭に、大局観にたって判断し、行動しようとしているのであろうか?

あるいは、当面の目先の自己保身だけで、できない理由ばかり並べあげて、言い訳の先取りと問題の先送りいう、もっとも姑息で低劣な思考回路に閉じこもってしまっているのであろうか。もしそうであるならば、事態は深刻だ。日本のお先は、真っ暗だ!

2021年秋、英国グラスゴーで、エリザベス女王は、COP26(気候変動枠組条約締約国会議)に参加した各国首脳に向け「一時的な政治の枠を超え、真のステーツマンシップ(statesmanship)を」と呼び掛けた。

ステーツマンシップとは、私利私欲にとらわれず,国家の十数年後の目標を考え,強い責任感・倫理感で行動する政治家精神のことである。

とりわけ、現下の深刻な気候危機打開にとっては、自国の国益のみならず、グローバスサウスの窮状も視野にいれた全球的ヴィジョンと、7世代先の子孫の幸福をも視野にいれた、「時空を超えた高い理念と大局観」が求められている。エリザベス女王が言いたかったことは、まさに、そのことなのである。なぜなら、真のステーツマンシップ無くして地球温暖化問題には解がないからである。

わが国の為政者にも、心静かに自分の胸に手をあてて、はたして、真のステーツマンシップを自分はもっているのか否か、謙虚に自問自答してほしい。そして、もし、政治家としての矜持をお持ちなら、コロナ禍の気候危機時代は、むしろ、明るい未来を構築する空前絶後の好機であると考えてもらいたい。政治家の本業は、選挙区の支持者の冠婚葬祭に留意することでも、地元民の意向を汲んで利益誘導することだけでもなかろう。

度重なる異常気象に象徴される気候変動問題や、今回の新型コロナウイルス禍は、自然界と人間社会の調和的バランスの不均衡への人類に対する最後通告である。気候変動問題が「イエローカード」なら、今回の新型コロナウイルス禍は、性懲りもなく愚行を繰り返してきた人類に対する「待ったなし」の「レッドカード」である。政治家諸氏は、これを自分自身に対する「レッドカード」だと認識してもらいたい。

いま人類がとりくむべきは、脱炭素社会(The decarbonized society)構築に向けた「人類社会全体の根本的なアップデート」であり「トランジションデザイン(Transition Design)」の具現化である。そのためには、アフター・コロナ時代を視野に、地球市民として人類の「価値変容」と「行動変容」が、いまこそ求められている。そして、健全なステーツマンシップに担保された有効に機能する民主主義システムが、切望されている。もっとも「価値変容」と「行動変容」が、真っ先に求められているのは、他ならぬ、政治家諸氏であるが。

はたして、日本には、その確固とした「トランジションデザイン」が、あるのだろうか?そして、その「トランジションデザイン」を主体的に描き、率先垂範して実践する、まっとうなステーツマンシップに裏打ちされた政治家が、いるのだろうか? そして、健全かつ有効に機能する民主主義システムが、存在しているのだろうか?

むろん、脱炭素社会への転換と言う「トランジションデザイン」の実現のためには、多方面で多大な負担が伴うが、この大きな変化を従来型の民主主義システム内で進める場合、合意形成がなかなか困難なことは確かである。こういったダイナミックな転換を現下の従来型の民主主義システム内で進めることは、なかなか難しい。

脱炭素社会への転換は必要なことであるが、どんな方法で行われるにしても、大多数の人の生活に著しい変化を生じさせ経済社会のあり方を劇的に変容させる。いかなる方針や方法でそれをいかにして実現すべきかについての広範な合意形成を、異なる立場の人々が参加してじっくり議論を行いながら丁寧に進めることが欠かせない。それには時間を要する。

しかし、切迫した喫緊の課題出る気候危機の残り時間を考えると、あまり悠長なことも言っていられないことも確かである。さはさりながら、現下の選挙制度を基盤とした間接民主主義システムでは、上記諸点に鑑み、毅然としたドラスチックな「トランジションデザイン」の遂行完遂は、期待薄である。

全ての政治家がそうだとは言えないが、残念ながら、自己保身に汲々とし、次期再選しか脳裏になく、集票マシンに堕した政治家も一部散見される。選挙地盤の利権に毒された政治家も大同小異おり、選挙に当選さえすれば、公約前言撤回は茶飯事であり、日本国民も、政治への期待を、なかばあきらめている感じすらある。そこには、なかなか健全な理念と矜持を実装した真のステーツマンシップが担保されているとは言いがたい悲しい実情がある。

既存の代表制⺠主主義は、機能不全に陥っている。そして、残念なことに、気候変動対策との相性が悪い。現下の民主主義システムでは、⻑期的な課題、世代や国境を越える問題は後回しになりがちである。気候政策を阻害・遅延させようとする既存の利害に影響を受けやすい難点がある。市民の代表である政治家と⼀般の市井の⼈びとの間に⼤きな⽴場の違いがあり、意識や関⼼にギャップがある。困ったことに、かくもさように、「気候危機」と同時に、「民主主義」も危機に瀕しているのである。なんとも悩ましいジレンマがそこにある。

それでは、かような悩ましい状況に対して、思い切った刷新を実現するには、どうしたらいいのか。

こうした文脈で、注目をされつつあるのが、欧州で始まった「気候市民会議(climate citizensʼ assemblies)」等に象徴される「気候民主主義(Climate Democracy)」の動きである。脱炭素社会への転換を確実に早期実現するためには、社会的意思決定のしくみの刷新も同時に⾏う必要があるという危機意識の広がりが背景にある。

脱炭素社会構築という単純明快な「正解」のない問題にあっては、行政任せに丸投げするのではなく、市民自らが主体的に学び、アイデアを固め、深め、広げることでしか、その対策に正当性を持たせることができない。

そのためには、既存の従来型民主主義の社会的意思決定のしくみではなかなか機能しない。なぜなら、既存の議会は、信頼を失い、意思決定者と一般市民との間に大きな距離が開いているからである。

民主主義のイノベーションなくして脱炭素社会は実現し得ないのである。そのためには、物事の決め方にも「民主主義の新機軸(democratic innovation)」が必要となる。

欧州では、このことに多くの人が気づき、「気候市民会議」という新しい民主主義の模索を始めている。そして、実際に、着実に成果をあげている。欧州では、既に、気候市民会議が、政府の実際の政策に影響を及ぼしている。現に、フランスでは気候市民会議の提言が「気候レジリアント法」に反映されている。

そして、欧州では、「気候市民会議」の潮流は、燎原の火のごとく、すでに、ドイツ、デンマーク等、英仏以外の国へ広がる「⽔平展開」と、都市・⾃治体での展開といった「垂直展開」が同時に進行中である。

同時に、様々な試行錯誤を経て、会議運営の実践を踏まえた知⾒の集積とフィードバックが進み、実践家・研究者の間で多様にネットワークされ、知識基盤の構築が進み、2021年6⽉には、「気候市民会議」同士の横連携のネットワーク「KNOCA(Knowledge Network on Climate Change Assemblies)」が設⽴されている。

それでは、そもそも、この「気候市民会議」とは、いったい何なのか?

「気候市民会議」は、無作為抽出(sortition)[1]で社会の縮図を構成するように集まった⼀般市⺠が、数週間から数か⽉かけて、気候変動対策について話し合う会議である。

[1] 「無作為抽出型(sortition)」を採用するのには、明確な理由がある。喫緊の課題である「脱炭素社会」への転換は、すべての⼈の暮らしに⼤きな変化をもたらす。その解決は、専門家も正解を知らない難問であり、その解決方法の選択肢も多岐にわたる。したがって市民全員が当事者である。市民⼀⼈ひとりが問題を知り、学習し、脱炭素化を実現するために、どのような社会の姿や暮らし⽅を選択すべきか、どのようなしくみや政策、技術などがあれば、市⺠が選択できるか等について、ともに考え、お互いに開襟して話し合いながら、熟議を経て、解決策を構築することが、健全な合意形成のために肝要である。

その結果は、国や⾃治体の政策決定に活⽤されており、着実に成果を挙げてきている。

「気候市民会議」の段取りとしては、まず、市民を無作為で抽出していわゆる「ミニパブリック」を作り、偏りのないバランスのとれた構成員によって会議を組成する。

そこでは、「対話(dialogue)」と「討論(debate)」の2軸からなる熟議を通じ、多様な気候危機政策のメリットとデメリット、便益とリスク、賛否両論を示すバランスの取れた情報を共有しながら、最善の政策提言を目指す[2]。まさに、気候危機解決を目指す、市民のための市民による会議なのである。

欧州における「気候市民会議」の概要は以下の通りである。
多種多様ではあるが、ここでは、主に共通してみられる特徴をあげておく。

【気候市民会議の概要】

1. 目的(Purpose)
気候市民会議はさまざまな理由で実施される。ほとんどのケースは、気候変動の緩和政策の策定に貢献するためである。しかし、適応政策の検討にも適用できる。

2. 主催者(Commissioning)
気候市民会議は通常、国から地方まで様々なレベルの公的機関が主催者となり、専門の組織に委託して実施する。委託は、様々な政府機関によって行われる。

3. 任務(Task)
気候市民会議は、「学習、熟議、提言」から構成され、与えられた任務に取り組む。会議が効果的に機能するためには、明確で回答可能な課題を設定することが重要である。気候市民会議の任務は、大部分、気候変動の緩和に重点を置いて気候政策について幅広い設問を設定してきている。

4. 回答する義務(Commitment to respond)
主催者は、通常、気候市民会議を設立する際に、提言にどのように対応するかについて公式に声明を発表する。これには、気候市民会議の最終報告書を検討し、提言にどのように対応するか、そしていつまでに公式の回答をするかなどが含まれる。

5. ガバナンス(Governance)
気候市民会議では、「主催者や特定の利害関係者から独立」したものであることを確保するために、しっかりとしたガバナンス体制を確立する必要がある。

6. 実施組織(Delivery bodies)
実施組織とは、参加・熟議型のプロセスの設計やファシリテーション、リクルートなどに専門的な知識を持つ独立した組織である。実施組織は、通常、主催者による競争入札により選定される。

7. 気候市民会議メンバーのリクルート(Participant recruitment)
気候市民会議の最も重要な点は、リクルート対象となる社会の特徴を広い意味で反映したメンバーを選任し、それを維持することである。まさに、この理由で、市民会議は「ミニパプリックス」と呼ばれる。リクルートのプロセスには、相当の資金と時間が必要である。まず、無作為の人選をきちんと行う必要がある。また、選任後はそのメンバーが適切に出席できるように支援する必要がある。

8. 実施期間(Duration)
多くの気候市民会議は、一回限りのイニシアティブである。与えられたタスクに適切に対処するために、気候市民会議では十分な時間を確保する必要がある。典型的には、国レベルの気候市民会議の場合、何回かの週末を使って行われる。

9. エビデンス(Evidence base)
気候市民会議においては、参加メンバーが何人もの証人(witnesses)からバランスの良い情報を受けることができるようにアレンジする必要がある。通常、「専門家グループ」がどのような情報が重要であり、誰が適切な証人かアドバイスする。証人には、科学者、政策専門家、利害関係者、政治家、気候変動のインパクトに直接さらされた人が含まれる。様々な課題や視点をカバーするために、たくさんの証人が選定されることがある。

10. 提言の作成(Developing recommendations)
国レベルの気候市民会議は、それぞれに提言を作成してきた。ただし、メンバー自身が作成する「政策提言」を行うものと、政府や専門家によってあらかじめ作成されたオプションを考察する「政策評価」を行うものとは明確に区別する必要がある。最終的な提言は、通常、投票で決定される。ほとんどの気候市民会議では、メンバーが自ら提言を作成する。しかし、これを実際にどう行うかはケースによって異なる。

11. 意思決定(Decision-making)
気候市民会議には、提言案を最終提言として確定するプロセスが必要である。提言案は、メンバーから構成される小グループにより作成される場合が多い。意思決定のプロセスは通常、単純な多数決で行われる。

12. 最終報告(Final report)
最終報告は、その気候市民会議が政策提言を行ったのか、あるいは政策の評価を行ったのかにより異なる。政策提言をする場合には、最終報告の大半は気候市民会議のメンバー自身により作成される。政策評価の場合には実施組織によって作成されるが、その中に含まれるメンバーの発言はメンバー自身が書くのが通常である。

13. コミュニケーション(Communication)
気候市民会議の透明性を確保するためには、適切なコミュニケーションが不可欠である。通常は、気候市民会議は専用のウェブサイトを立ち上げ、プロセスの詳細やメンバーに提供されたエビデンスを公表している。全体会合やエビデンスのプレゼンは、通常、ライブストリームされ、その録画や提出された書類は公開される。

14. 正式な回答の監視(Oversight of official response)
気候市民会議の一つの弱点は、主催者が提言を受け取った後、どうフォローアップするかを監視する機能が欠けていることである。通常、提言の提出をもって気候市民会議は終了する。

15. インパクト(Impact)
気候市民会議の第一の目的は、政府の政策に影響を及ぼすことである。欧州では、すでに、多くの実績がある。

16. 評価(Evaluation)
独立した評価を実施し、系統的な学びを行うことは、気候市民会議の実施を改善する上で重要である。これまで行われてきた国レベルの気候市民会議はパイオニア的なものであり、ここから学ぶことは将来の同様なイニシアティブの改善に資する。

[2] 欧州の代表的な気候市⺠会議の1つである英国のCAUK(Climate Assembly UK)の「最終報告書」の⾻⼦は、以下である。1. 対策の基本原則(Underpinning Principles)=「全ての人への情報提供と教育」「英国内における公正さ(fairness)」「政府のリーダーシップ」「自然の保護と再生」など25項目。2. 陸上交通=将来にわたって、移動やライフスタイルへの制約がなるべく少なくて済むよう,電気自動車への転換や公共交通機関の改善に力を入れる。3. 空の交通 =今後も人々が航空利用を続けられるような解決策を望む。2050年までの航空旅客数の伸びを,現状の65%増の予測に対して,20-50%増に抑える。利用頻度や距離に比例して負担が重くなる税の導入。4. 家庭でのエネルギーの利用=各地域・各家庭に合った対策を。競争を促進することで選択肢を増やすべき。信頼のおける,わかりやすい情報提供が必要。あらゆる所得層,居住形態に対応できる解決策を。5. 食と農業、土地利用 =地元での食料生産を通じて,地域へのベネフィットや,生産者にとっての公正な価格,環境負荷の低減を実現。食肉と乳製品の消費を20-40%削減。土地利用の多様性を確保。排出実質ゼロへの移行が可能になるよう,生産者を支援。動物福祉への配慮。遺伝子組換え食品や培養肉への強い警戒。6. 買い物=企業は,より少ないエネルギーと原料で製品をつくることを強く支持。消費者は,新しいモノの購入を減らし,積極的に修理するとともに,共用(シェア)すべき。理解した上での選択と,個人の行動変容を促すための,よりよい情報提供を。7. 電力の供給=英国においては,洋上風力(参加者の95%が支持),太陽光(同81%),陸上風力(同78%)の3つが,効果が実証され,クリーンで,低価格な電源である。これらに比べると,バイオエネルギーや原子力,CCS(二酸化炭素回収貯留)付きの化石燃料に対する支持は非常に弱い。8. 温室効果ガスの吸収=温室効果ガスの大気中からの除去の方法としては,森林(参加者の99%が支持),泥炭地や湿地の再生と管理(同85%),建設への木材利用(同82%),土壌への二酸化炭素の貯留の促進(62%)の4つを支持。CCS付きのバイオネルギーや,大気中からのCO2の直接回収への支持は弱い。9. 新型コロナウイルス感染症と排出実質ゼロへの道筋=政府の経済回復策は,排出実質ゼロの達成を手助けするように計画されるべき(参加者の79%が支持),ロックダウンの解除に伴って,政府や雇用者などは,排出実質ゼロとの両立可能性がより高い方向へと人々のライフスタイルを変化させるよう促すべき(同93%)(出所)三上直之(2023)「気候⺠主主義とは何か︖欧州におけるその展開」(欧州の気候市⺠会議の最新動向と⽇本の学び)、環境政策対話研究所(2021)『欧州気候市⺠会議〜脱炭素社会へのくじびき⺠主主義の波』

ちなみに、欧州では、実⽤的な「気候市⺠会議のスタンダード」が作成されている。
気候市⺠会議を成功させる要件である。以下に紹介しておきたい[3]

【気候市⺠会議のスタンダード(CITIZENS’ ASSEMBLY standard)】
(英国公的参加慈善団体Involve)

●明確な⽬的=公的な計画や政策、何にフォーカスした議論を⾏いか何が対象外であるか、
 などを明らかにする。
●⼗分な時間の確保=気候変動は複雑な問題で時間がかかるので、
 学習、熟議、意思決定に⼗分な時間(30-45時間)が必要。

●代表性=くじ引き(sortition)でメンバーを抽出。
 公正に国⺠・市⺠を代表するよう、低所得者、障がい者、政治的バランス等を考慮。

かような気候市民会議の取り組みは、先行している発祥地の欧州だけではなく、日本においても、着実に進展があることは、朗報である。まず2020年〜21年にかけて、札幌市や川崎市における気候市民会議への試行的な取り組みがあった。その成果も踏まえて、2022年に東京都武蔵野市や埼玉県所沢市等の自治体で行政が公式に主催する気候市民会議が開催された。そして、2023年以降も、神奈川県逗子市・葉山町等、各地で新たな気候市民会議が開かれて、今日に至っている。

以下は、日本における気候市民会議の実施状況である。日本においても、この動きが燎原の火のごとく拡大伝播し、各自治体が率先して主催し、本格的な気候市民会議が、着実に起動し拡大してきている状況がわかる。


【日本における気候市民会議の実施状況】(2023年7月20日現在)[4]

(自治体名・開始月/名称/成果物・報告書等)

2020年
●北海道札幌市・11月/「気候市民会議さっぽろ2020」/「気候市民会議さっぽろ2020最終報告書」

2021年
●神奈川県川崎市・10月/「脱炭素かわさき市民会議」/「脱炭素かわさき市民会議からの提案
2050年脱炭素かわさきの実現に向けて」

2022年
●東京都武蔵野市・7月/「武蔵野市気候市民会議」/「武蔵野市気候市民会議 実施の記録」
●東京都江戸川区・8月/「えどがわ気候変動ミーティング」 
●埼玉県所沢市・8月/「マチごとゼロカーボン市民会議」 /「マチごとゼロカーボン市民会議 報告書(速報版)」

2023年
●東京都多摩市・5月/「多摩市気候市民会議」
●神奈川県厚木市・6月/「あつぎ気候市民会議」
●神奈川県逗子市・葉山町・7月/「かながわ気候市民会議in逗子・葉山」
●東京都日野市・8月/「日野市気候市民会議」
●茨城県つくば市・9月/「気候市民会議つくば」

気候変動対策を取り巻く欧州の状況と日本の状況は異なっており、欧州でのレッスンが日本にそのままあてはまるという訳ではない。むろん、先行している欧州とは言え、依然として試行錯誤を続けているのが実情である[5]。しかし、欧州における気候市民会議はすでに十数か国で数十に及ぶ蓄積があり、そこからの学びは大きい。肝心なことは、この気候市民会議を通じ、脱炭素社会づくりの取り組みや行動の加速にどう結びつくかである。日本においても、もはや政治任せにしておけないとの危機感から、1人ひとりの市民の主体的な行動が、日本全国、東西南北、津々浦々で「民主主義の新機軸」としての「気候市民会議」を続々と誕生させ、日本版脱炭素社会構築の1日も早い実現に、結実する日が来ることを、願ってやまない。

[3] Involve(2023)“CITIZENS’ ASSEMBLY”

[4](出所)三上直之(2023)「気候民主主義の日本における可能性と課題に関する研究」(科研費基盤研究A「気候民主主義の日本における可能性と課題に関する研究」JP23H00526)

[5]スコットランドの気候市民会議評価報告書には、以下の課題が報告されている。他山の石として日本も参考にできよう。「議題の範囲や情報提供の⽅法や内容、報告書の起草の仕⽅など会議の進め⽅について、どの程度、参加者の意⾒を反映すべきか」、「多分野の専⾨家からなる運営チームの内部で、事前にどの程度の時間をかけて関係構築を⾏っておくべきか」、「参加者・運営者双⽅にとって無理がなく、しかも会議進⾏の「勢い」をそがない⽇程の組み⽅は、市⺠会議からの提⾔に対して、政府(⾃治体)が明確で正確な応答をするため、どのようにすべきか」、「市⺠会議の提⾔に対する政府(⾃治体)の対応の検証は、どのように⾏われるべきか」等々。(出所)Andrews, N., Elstub, S., McVean, S., and Sandie, G.(2022)“ Scotlandʼs Climate Assembly Research Report: Process, impact and Assembly member experience,”(Scottish Government Research;March 2022).