2022年11月16日、17日の両日、「建設技術展2022 関東/C-Xross 2022」が池袋・サンシャインシティ(豊島区)で開催。今回は企業・団体140以上が出展、「DX」を合言葉に建築・土木関連の最先端技術やソリューションが披露された。その中でも「脱炭素」に関する注目アイテムを紹介する。

鹿島建設
ブルーカーボンへの取り組み―オス・メス配偶体の分離・増殖技術で藻場を再生

海藻が茂る「海の森林」、藻場の衰退(磯焼け)は、漁業被害や生態系への悪影響はもちろんのこと、CO2の吸収・固定化の減少にも直結、地球温暖化を加速しかねず深刻だ。そこで鹿島建設はこれを防止するため「藻類の種苗(胞子)の年間供給」技術を確立、まずは大型藻類に狙いを定め、同社の技術研究所葉山水域環境実験場(神奈川県葉山町)を拠点に隣接する相模湾沿岸をフィールドにアラメを繁茂させる実用試験を展開している。

母藻が放出する胞子で海藻は繁殖するが、その胞子にはオス・メス2種類の配偶体が存在し、しかもこれら配偶体はオス・メスを分離しておくと、受精しなくともそれぞれ個別に自己増殖するという不思議な性質を持つ。

同社はここに着目、両配偶体を分離し陸上の施設内で人工的に浮遊培養させた「フリー配偶体」によって、いつでも種苗の大量生産可能な技術を確立した。後はオーダーに合わせてオス・メス両配偶体を混合して受精させ、海藻の「芽」(種苗)を適当な大きさまで育成させた後、人工漁礁や「磯焼け」した漁場などに設置し根付かせればいい。ちなみにアラメの生育は旺盛で条件がよければ数カ月で数十cmほどになるという。
もともとワカメの人工増殖用に開発された技術で、これをアラメなど大型海藻にも応用した点がポイント。今後はコンブの藻場再生にも生かしていく計画だ。また同社は藻場再生のノウハウを蓄積して、ブルーカーボンの導入を試みる自治体や企業に対するコンサルタント業務も育てていくようだ。

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脱炭素・環境技術―「植物のようにCO2を吸い込む」コンクリート

鹿島建設と中国電力、デンカ(後にランデスが参画)による共同開発技術で、コンクリートの主原料であるセメントは生産過程で熱源として安価な石炭(コークス)を燃やすためCO2の大量排出が問題になっている。そこでセメントの半分以上を、製鉄所のスラグや石炭火力発電所の石炭灰など産業副産物などで代替する技術「CO2-SUICOM(スイコム)」を確立した。またCO2と反応する混和剤「γ‐C2S (ガンマC2S)」を加えることで、コンクリート生成過程で大量のCO2を吸収・固定するという。まさに「夢のコンクリート」である。

しかも特筆すべきは、単に「CO2排出量ゼロ」にとどまらず、本来排出される量を上回るCO2を”消費”する点だろう。つまり理屈上はこれを使えば使うほど世の中の炭酸ガスを減らすことができることになる。このため同社はあえて「植物のようにCO2を吸い込むコンクリート」と表現する。

同社の理論計算によれば、通常コンクリート1㎥を製造する場合、288kg/㎥のCO2が排出されるが、CO2スイコムでは、産業副産物との置換でまずは197kg/㎥、さらにγ‐C2Sの吸収・固化効果で109kg/㎥、合計306kg/㎥のCO2削減が期待できるという。つまり18kg/㎥分の炭酸ガスを余分に吸収している計算で、これは高さ20mの杉1本が1年間に吸収するCO2量約14kgに匹敵する。

もちろん、世界で初めてコンクリート製造過程でCO2排出量ゼロ以下、つまり「カーボン・ニュートラル」を実現した技術であり、すでに境界ブロックや太陽光パネルの基礎、舗装コンクリート・ブロック、プレキャスト埋設型枠、マンション・バルコニーの天井など様々な箇所で使用され始めている。
また現在は日本コンクリート工業が開発したCCU(CO2回収・貯蔵)骨材・芬対素材「エコタンカル」とこの技術を合体、コンクリート製造時の炭酸ガス排出量をさらに大幅削減する、「カーボン・ネガティブ・コンクリート」の製造技術の研究も推進中だ。

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清水建設
既存コンクリートに塗ってCO2を吸収・固定化

清水建設と北海道大学は橋脚や堤防など既存のコンクリート構築物に特殊な「塗料」を塗るだけで、大気中のCO2を吸収・固化する「DAC(Direct Air Capture)コート」技術を共同開発した。

コンクリート表面に含侵剤として炭酸ガス吸着性能に優れるアミン化合物溶剤を塗ると、大気中のCO2を吸収し徐々にコンクリート内部に浸み込んでいく。そしてこの過程で、吸着されたCO2はやがて炭酸カルシウムとしてコンクリートの一部となって取り込まれてしまうという。

同社のシミュレーションによると、橋脚10本(コンクリート3000㎥相当)にDACコートを塗布した場合、年間約9tのCO2を固定化するとのことで、これは1万㎡のスギ人工林の年間CO2吸収量とイコールだという。また浸透したアミン化合物は防食効果にも優れるため、鉄筋の長寿命化にも貢献する。

廃棄オガ粉の炭をコンクリートに混ぜ込む

木材を炭化した「バイオ炭」をコンクリートの混和材として活用することで、コンクリートの製過程で排出されるCO2の削減に寄与しようという技術である。

要するに木炭をコンクリート内に練り込むことで、セメントなどの使用量を削減する発想で、使われるバイオ炭は製材時に廃棄されるオガ粉を利用。炭素含有率は約9割で100年後の炭素残存率も約9割であることから、CO2を長期間にわたり安定的かつ多量に固定できる点がポイント。

ちなみに理論上、バイオ炭1kgで約2.7kgのCO2を固化する計算で、また通常のコンクリートと同等のフレッシュ性状や硬化性能、施工性を持ち合わせているという。

大成建設―脱炭素・環境技術
コンクリート材料に排出CO2で生成した炭酸カルシウムを活用

コンクリートの主原料・セメントは鉱山で産出される石灰石から製造され、主成分は炭酸カルシウム(CaCO3)だが、製造過程では燃料として石炭(コークス)が使われ、大量のCO2排出が問題視されている。

そこで同社は工場などから排出されるCO2を回収し、これを酸化カルシウムと反応させて生成した炭酸カルシウムを使用することに着目。これに製鉄所の副産物、高炉スラグや反応剤、骨材を混ぜて作られるコンクリート「T-eConcrete/Carbon-Recycle」を現在実用試験中。

まだ酸化カルシウムの調達やコストなど課題も残るものの実用化まで目前のようで、同社によればCO2排出量の収支実績は、コンクリート1㎥の製造当たり∸116~∸45kgと、理論上は「カーボン・ネガティブ」に達している。また炭酸カルシウムのCO2固定量は98~171kg/㎥に上るという。