芝浦工業大学工学部応用化学科野村幹弘教授ら研究チームは、排出ガスや天然ガス中のCO2濃度の低減を目指し、CO2を効果的に分離する膜の合成方法を新たに開発した。
CO2をほかのガスと分離・回収する技術において、ピュアシリカCHA膜の性能が分離プロセスの効率を大きく左右する。従来の合成方法とは違い、シリカ多孔体を基材として使用することで、合成時間を70時間から8時間へ短縮し、また、従来基材と比較してCO2に対する透過性が2倍高くなることを発表した。
【ポイント】
●排出ガスや天然ガス中のCO2を効果的に分離する膜合成法を開発
●合成時間を短縮し、膜の透過性能を2倍にすることに成功
●二酸化炭素回収・貯留技術(CCS: Carbon dioxide Capture and Storage)の進展に寄与
【研究の背景】
カーボンニュートラル実現に向けて、排出ガスや天然ガス中に含まれるCO2を除去する方法が世界中で研究され、その有効な手段のひとつが「二酸化炭素回収・貯留技術(CCS: Carbon dioxide Capture and Storage)」となる。
CCSでは、CO2と他のガスを分離回収する手段の一つとして、膜分離法が用いられる。膜の選択透過性が、分離プロセスのコストに影響するため、分離膜の改良が求められる。そういった中、近年、温室効果ガスであり、エネルギー源としてさまざまな産業で利用されているメタン(CH4)とCO2を分離する膜として、ゼオライト膜の一種としてCHA膜が注目されている。CHA膜は、8員環のシリコン(Si)を主成分とする結晶で、直径0.38nmの細孔をもっている。これは、CO2分子(0.33nm)を透過し、CH4分子(0.38nm)やその他の大きな分子を透過させないサイズとなる。
このCHA膜を合成するには、セラミック多孔質基材上に、CHAの微結晶を塗布し、CHA原料ゲル中で、これら結晶を成長させる二次成長法が最も一般的。CHAゼオライト中のCO2の拡散は、CHA中にアルミニウムを含有しない状態が最も速いので、ピュアシリカCHA膜開発が求められる。しかし、セラミック多孔質基材として、アルミナが用いられることが多く、合成中に、原料ゲル中に含有されているアルカリ成分により、多孔質基材よりアルミニウムが溶出し、ピュアシリカCHA膜を合成できていなかった。
【研究概要】
同大学の今回の研究では、従来の方法で開発したCHA膜よりも、高いCO2分離性能をもつピュアシリカCHA膜を合成する新しい方法を開発。従来用いられてきたアルミナ基材ではなく、多孔質のシリカ基板を使用して結晶を成長させた。シリカ基板を使用することで、前述の問題が解消され、CO2透過率が向上した。
そして、様々な合成条件下での実験を通じて、原料ゲルとシリカ基材の組み合わせを最適化し、CO2/CH4混合ガスに対して最も高いCO2分離性能をもつ膜を得ることができた。また、従来用いられているアルミナ基材上に作製したCHA膜との性能を比較。ゲルの水/シリカ比が4.2のとき、最適なゲルの粘度となり、均質な膜ができることがわかった。しかし、均質な膜であっても、CO2透過率において最も優れているということではない。水/シリカ比が4.6のゲルを多孔質シリカ基材に塗布し、150℃で8時間合成することで、多孔質アルミナ基材上で同じ条件で合成した膜の2倍の透過性をもつ膜を合成することができた。さらに、アルミナ基材上で同じ膜厚の膜を合成するのに必要な条件170℃、70時間であり、合成時間も大幅に短縮できた。
【実験結果と今後の展望】
この研究は、シリカ基材上で効果的なピュアシリカCHA膜の合成を実現し、重要な情報を提供。これまで、CHA膜によるCO2回収の産業化を困難にしていた原因の一つである低透過性をクリアする可能性を秘めている。研究がさらに進むことで、地球温暖化による気象変動を抑えるために、カーボンニュートラルな社会の実現に寄与していく。