2021年10月31日からイギリス・グラスゴーで開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)は、会期を1日延長して、11月13日に閉幕した。長引く交渉の末、最終的に、世界の平均気温の上昇を1.5度未満に抑えるための削減強化を各国に求める「グラスゴー気候合意」が採択され、パリ協定のルールブックも完成。また会期中は、市民組織や企業、自治体など世界中の非国家アクターから、パリ協定の1.5℃目標の実現に向けた強い意志が示された。
このCOP26のWWWFジャパンによる報告会が、12月1日zoomウェビナーで開催された。同報告会ではCOP26に参加したWWFジャパンの専門家が、その成果や課題、それらがもたらす企業への示唆などを話した。ここでは以下の3つの報告の概要を紹介する。
COP26報告
WWFジャパン 専門ディレクター(環境・エネルギー) 小西雅子 氏
COP26注目すべき3つの成果
今回のCOP26ではパリ協定採択時以来の成果があったように思う。そしてその成果は、次の3つに分けられるだろう。
1)パリ協定で気温上昇に関する長期目標が事実上、2℃未満から1.5℃に強化されたこと。
2)6年越しにパリ協定の詳細なルールブック(実施方針がすべて合意されてパリ協定が完成したこと)
3)温暖化の最大要因として石炭火力削減方針が初めてCOP決定に明記されたこと。
この1つ1つについて説明をしていく前にパリ協定について振り返っておきたい。
まずパリ協定は、気温上昇を2℃(1.5℃)に抑えるために今世紀後半に人間活動による排出ゼロを目指す目標を持つ初めての協定となる。各国が掲げる今の削減目標では2℃は達成できない。そのため、今後達成できるよう5年ごとのサイクルで目標を改善していく仕組みを設けた。またパリ協定で定めたルールは、世界が本気で温暖化対策を進める意思を持つことを表すために、法的拘束力を持つ協定とした。
ここで言う温暖化対策とは、日本の場合、ほとんどがエネルギー関連となり、世界経済に影響するので非常に包括的なルールがパリ協定では定められている。こういった国際法は、それをどのように実施していくかというルールは後に決められることになる。本当はそれが2018年に決定する予定であったが、パリ協定の6条や市場メカニズムについては合意が得られずに先送りされた。それが2019年にも先送りされ、2020年はコロナ禍のため、延期されたのでそのままCOP26まで残されたことになる。
報告資料より
長期目標が事実上、2℃未満から1.5℃に強化
今回のCOP26でまず注目したい成果は1.5℃目標に強化されたことなるが、もともとのパリ協定の長期目標は2℃未満だった。しかしCOP21の際に2℃では国土が水没してしまうという島嶼国の強い主張で賛同が増え、欧州諸国がその要求を呑み、事実上格上げされたと言っても過言ではない決定になった。
こういった国際法は、いろいろな事情を経た上で深刻な対立を経るため、今回のような合意がなされることはほとんどない。このような世界の動きに合わせて1.5℃目標が事実上パリ協定の長期目標になった。
COP26の直前には、IPPCの第6次報告書が出されている。そこでは、今、気候変動は既に人間が住むすべての地域において影響を及ぼしており、これは人間活動によることが非常に確信度を強めている。またそこでは50年に一度の猛暑の発生数や海面の上昇等において1.5℃と2℃でかなりの差があることが示された。1.5℃に抑えるには2050年に実質排出ゼロに。2℃に抑えるには2070年に実施ゼロに抑えることでそれが可能になる。
COP26では会議上、その場でIEAのビロル議長が「今後の気温上昇の予測は1.8℃まで下げられた」と発表した。実はパリ協定が始まって以来、各国積み上げてきた削減目標がずっと2℃を越えていたので2℃未満がはじめて視野に入ったということは、会議の参加者を非常に勇気づけた。しかし、このときにもう1つわかったことがある。それは今、引き揚げた目標でも今後20年以内に平均気温は1.5℃を超えてしまうということ。2030年頃には1.5℃になってしまう確率は高まっている。つまり今後10年が非常に重要となる。この10年に急激で大規模な温室効果ガスの削減がなければ1.5℃に抑えることは達成不可能になってしまう。今回のCOP26決定には来年末までに2030年目標を再度見直して強化することが各国に要請された。
パリ協定のルールブックが完成し、完全な形で始動
COP26の2つ目の成果はパリ協定が完成したこと。残されたルールは様々あったが中でも大きかったのが6条(市場メカニズム)のルールだった。パリ協定の市場メカニズムというのはカーボンオフセットの仕組みとなる。これは、すなわち先進国が資金と技術を出し、途上国で削減プロジェクトを行い、削減できた分を途上国でわけあう制度となるが、このときに途上国と先進国が両方削減を主張してしまうと世界全体で見た場合は、削減量が倍になってしまう。それを回避するためには、削減された量を途上国分は50%、先進国分は50%というように相互に調整しなければならない。これは「相当調整」といわれる仕組みとなるが、非常にもめていた。しかし、今回は紆余曲折を経て二重計上が非常にされにくい仕組みができ、6条の合意がなされた。結果として他のものも合意され、パリ協定としてルールブックが完成し、完全な形で始動したことになる。
石炭火力を段階的削減へ
COP26では温暖化の最大要因として石炭火力に言及された。議長国のジョンソン首相はCOP26の前に各国に4つの具体策を呼びかけていた。それは石炭火力の廃止計画、電気自動車の普及、資金支援、植林の推進となる。中でも石炭火力発電について、先進国は2030年に廃止、途上国は2040年に廃止を要請していた。
その声に応え、COP外のイベントとして1週目に開催された「脱石炭連盟」の会議では新たに28の国や地域などが石炭火力の廃止を約束。加えてCOP26決定文書に石炭火力の削減が書き込まれた。
この文書の当初のドラフトでは「段階的廃止」だったが産油国やインドなどの新興国が強く反対し、弱められた結果「段階的削減」になった。これで石炭火力は、「廃止」から「削減」に弱められたと思う人が多いかも知れない。しかし、こういった一つのエネルギーについては、各国の内政の選択に委ねられており、通常では国際法においては言及しない。それがあえて国連のCOP26決定の中で「石炭火力」と名指しして書き入れるというのは非常に異例なことになる。つまり国際社会における石炭火力への逆風はさらに強まったと見えられる。
その中で岸田首相は、ワールドリーダーズサミットに衆院選直後にも関わらず駆け付け、気候変動対策に真摯に取り組んでいることをアピールできた。また日本も2030年46%削減、さらに50%の高みを目指し、2050年ゼロという目標を持っていることで今回はリーダーシップを発揮する側になれた。しかも途上国の資金支援として新たに5年間で最大100億ドルの追加支援も約束した。
実はCOP26の大きなテーマは資金支援だった。年間1000億ドルもの資金を途上国支援に振り分けることは決まっていたが、まだ先進国からの額が満たなかった。その約束が守られない中、途上国は削減だけを求められるのかと非常に信頼度が問われる中での日本の資金支援は歓迎されるものだった。
しかし、日本は気候行動ネットワークの化石賞を受賞。理由は太陽光などの再生可能エネルギーの普及のために火力発電は必要としてアンモニアや水素などによって火力発電のゼロエミッショ化を図り、それらを国内のみならず、アジアにも展開すると演説したことによる。
特筆すべきは非国家アクターのさらなる活躍と存在感が目立ち、COP26開催中、「気候マーチ」と呼ばれる世界的なイベント=地元グラスゴーでも数万人の市民は集まり、政府首脳に声をかけ、そこには多くの若者の姿もあった。
2℃未満」は本当に射程圏内に入ったのか?
~クライメート・アクション・トラッカー COP26 報告書より
New Climate Institute 主任研究員 倉持 壮 氏
クライメート・アクション・トラッカーは2009年に発足。現在はNew Climate InstituteとClimate Analyticsという2つのシンクタンクにより運営され、各国対策の評価や世界の温室効果ガス排出・気温上昇見通しを定期的アップデート。国際機関、各国政府並び各国メディアが分析結果を報道および使用している。
クライメート・アクション・トラッカーは11月9日(COP26第2週)に2030年排出削減目標(NDC)の更新および各国のネットゼロ目標がもたらしうる効果を主に分析した結果を発表し、COP26の第1週の楽観的な空気に釘を刺した。そこでは各国の2030年目標(NDC)の合計は、1.5℃排出シナリオに遠く及ばないことを指摘した。
しかしネットゼロ目標が「パリ協定目標達成に向けた実質的スタート・ラインに立つ」と考えるならば、「主要排出国がようやくスタート・ラインに揃った」と言える。また、2015年前後から世界の気候変動対策は確実に前進している。
「2℃未満」は、いまだ相当な距離はあるが、ギリギリ射程圏内に入ってきた、と言える。今後、各国は自らの長期ネットゼロ目標に整合した、短中期目標および政策を導入・実施しているかどうかで評価されることになる。
報告資料より
COP26における非国家アクター・日本の機関投資家が世界へ躍進
WWFジャパン気候・エネルギーグループオフィサー 田中 健 氏
COP26ではアクションゾーン、アクションハブ、アクションルームなどCOP26会場のいたるところで非国家アクターの姿も多く見られ、非国家アクターをテーマにしたハイレベルセッションも行われた。
毎回、COPにおける非国家アクターの存在感は強くなり、気候危機への関心の高まりは、1.5℃目標の誓約から即時の行動へと動き始めている。
一方投資家の動きとしては、2021年4月にネットゼロに関する7つの金融イニシアティブの連合体であるGlasgow Financial Alliance for Net Zero (GFANZ)が作られ、そこには名だたる日本の金融機関も数多く署名し、ネットゼロへの移行を加速。COP26時点で45カ国の450社以上の金融機関が参加する中、世界の金融機関、投資機関が1.5℃目標を実現するためのポートフォリオづくりへと動き始めている。
また、30以上の金融機関が森林破壊を招く パーム油、大豆、牛肉、皮革、パルプ、紙等の農産物の生産に関連する投資を 2025 年までに無くす取り組みを強化すると約束し、
気候変動対策の中で、単なる削減策だけでなく、森林破壊・土地劣化、生物多様性保全への取り組みも広がってきている。
報告資料より