地域の魅力を活かしながら資源循環や自然共生に取り組むことで脱炭素も実現し、それぞれに相乗効果が得られる、つまり地域においてSDGsを達成する社会、地域循環共生圏の創造を目指すにはどうしたらよいか、を考えるシンポジウム「グリーン×デジタルが先導する豊かな地域循環共生圏づくり」が2021年12月6日、オンラインで開催された。同シンポジウムは環境省を主催に国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)と地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)が共催。グリーンとデジタルをキーワードに今、地域が抱える課題に対して様々な工夫で地域づくりを進めている事例を共有し、さらに、ICT等の科学技術を活用したコミュニケーションや行動変容にも着目しながら、これからの地域づくりにおけるパートナーシップの在り方について議論した。
ここでは本年6月に発表された地域脱炭素ロードマップとデジタル&グリーンに触れた環境省の環境事務次官 中井徳太郎氏の挨拶と和歌山県が取り組んだ先進事例について語った和歌山県知事 仁坂 吉伸氏の基調講演について紹介する。
デジタル&グリーンがレジリエントな地域づくりの主軸に
環境省環境事務次官 中井 徳太郎 氏
社会は新型コロナウイルス感染症の影響から急速なデジタル化が進展した。リモートワークやオンライン授業は住む場所を選ばない働き方や学び方への後押しとなり、もはや都市一局集中ではない自立分散型社会への実行への扉が開かれた。また環境に目を向けると異常気象や自然災害など気候変動の影響が指摘されている。この気候危機とも言える状況に対して、先日のCOP26ではパリ協定のルールブックが完成するという歴史的なCOPとなった。世界は脱炭素という目標達成実現への段階に入っている。我が国も果たすべき役割を認識し、その決意として2050年カーボンニュートラルを宣言し、本年6月には脱炭素社会実現に向けて地域脱炭素ロードマップを作製した。
ロードマップでは今ある技術を最大限活用し、一人ひとりが取り組むことで脱炭素社会が実現可能であること。また地域脱炭素は地域課題の解決と地域の魅力創出に貢献するものであるという強いメッセージを発信している。すなわち本日のキーワードであるデジタル、そしてグリーンは今後の持続可能でレジリエントな地域づくりの主軸になると考えている。
本日のシンポジウムではデジタル技術を活用による地域内外の住民のコミュニケーションのあり方、都市と地域の支え合いのあり方、そして海外における持続可能な地域づくりの先進事例などデジタルがもたらす新しいグリーン社会でのパートナーシップのあり方を皆様といっしょに考えていきたい。
グループ全建設現場の使用電力についても、2025年末までに100%再生可能エネルギーへの切り替えを予定している。
基調講演「環境問題の解決に資する和歌山県の様々な取り組み
和歌山県知事 仁坂 吉伸 氏
生物多様性の保全と都市との連携が急務
和歌山県は自然が豊富ではあるが、生物多様性という観点からすればその保全は生易しいものではない。また新しいノウハウ・資金・担い手を確保する観点から、都市との連携も不可欠になる。そのためにはデジタル技術を取り入れていかなくてはならない。
こうした保全・活用や連携を充実し、環境問題の解決に資するための取り組みを今、展開している。
気候変動対策では森林吸収資源対策、森林の適切な管理・保全(紀の国森づくり資金)や「企業の森」を活用した企業の社会貢献活動支援、またバイオマスや小水力、太陽光・風力発電の利用促進を一方向ではなく総合的に展開し、2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指している。
それらに加えて急務となるのは循環型社会の構築となる。そのために和歌山県では、3Rの推進、マイバッグなど繰り返し使える製品の利用促進、廃棄物の減量化やリサイクルに役立つ製品を認定し、優先的に購入することを推奨している。
さらに海洋ごみ・プラスチック対策も進め、わかやまごみゼロ活動の応援やごみの散乱防止を実施。リニアエコノミー(線形経済)から、サーキュラーエコノミー(循環経済)を目指している。
ここで環境問題の解決に資する和歌山県の3つの取り組みを紹介したい。
循環産業の好例として挙げたいのは以下になる。
1)世界農業遺産「みなべ・田辺の梅システム」
2)東京一極集中の弊害を緩和ワ―ケーション
3)生態系への影響が懸念されるプラスチック類ごみ問題への対策
みなべ町の梅畑
世界農業遺産「みなべ・田辺の梅システム」
和歌山は梅の大産地であり、斜面が多い、その斜面に梅を植えている。山の頂にはウバメガシという紀州備長炭の原料を植えている。その炭を取るためのウバメガシの林の中には早春には梅の花から蜜が取れるようなミツバチを飼っている。ミツバチは梅の受粉も助けてくれる。ウバメガシは少しずつ切って炭にしていく。
雨が降ると備長炭の林の中に水が溜まり、それが梅の畑を潤し、さらに溜池に溜まり、その下にある田は畑に水を提供していく。それが循環している社会が「みなべ・田辺の梅システム」となる。これは国連が認定している世界農業遺産となっている。さらにこのシステムを発展させている。
一つは梅加工時に発生する調味残液を活用したバイオガス発電。
梅というのは剪定が必要になる。古くなれば植え替えていかなければならない。その際に木屑や切った枝がたくさん発生する。また紀州備長の原木確保の際に発生する枝葉等も木質バイオマス発電に活用している。
もう1つの産物は観光となる。その関係人口の増加に向けて農家民泊や農業体験などにも利用している。400年間、継続してきたこの梅システムをさらに400年、さらにその先へ保全、継承していきたい。
東京一極集中の弊害を緩和ワ―ケーション
2つめの我々の環境政策は、東京一極集中の緩和になるワ―ケーションという概念になる。ワ―ケーションというのは、ワークとバケーションを合わせた言葉となり、和歌山県が2017年に先駆けてその受け入れを開始した。
この背景には一極集中がある。東京や大都市の一極集中は多大なエネルギーを消費し、地球環境に負荷を与えている。あるいは狭い、高い、通勤に時間がかかる中で働いている大都市。その中で生産性も低下していく。働き方改革と言われているが、本当の働き方改革は、働く環境を変え、自然の中で省エネ型の生活をしながら仕事に取り組んでいくことではないか、と考えていた。
一方、和歌山県にとっては観光地の一つのメニューとして新しく提唱していくこともあった。最近はICT技術も発展し、新型コロナによってテレワークも進むことでワ―ケーションがやりやすくなっていった。ということで我々はどんどん生み出している。和歌山県がワ―ケーションに力を注ぐために白浜をワ―ケーションの聖地にした。なぜか。それは東京から飛行機が直行し、あっという間に着きながら、環境がまったくちがうからだ。ITサテライトオフィスなども環境を利用して名だたる企業も進出している。IT系の産業の集積もかなり進んできている。
通信については人口当たりのWi-Fi整備数が全国2位であり、超高速ブロードバンドの県内整備率は99.9%、NICTによる災害時でも途切れないNeverNetを整備するなど災害時にも強いネットワークを有している。
またバケーションについては言うまでもなく、世界に誇る観光資源がある。ここなら家族を連れてきて仕事もできる。職場単位でたとえば一週間、和歌山に滞在し、この観光資源である美しい自然の中で生産性を上げていくこともできる。地元企業ともコラボレーションを行うこともできる。
こういったワ―ケーションへの取り組みを2017年頃から進めてきた。企業として例えば三菱地所は、顧客対策、日本能率協会は研修の一環として、あるいは転職なき移住の地として富士通は興味を持っていただいている。そのためにはワークプレイスが必要となり、建設を進めている。地元でもコーディネート機能を高め、宿泊施設やアクティビティ体験のメニューや交通手段を提供するなど様々なものが結集している。
実際にワ―ケーションを行った企業から仕事のパフォーマンスが向上したなどの高い評価もいただいている。受け入れ環境はITを使ってさらなる充実を図りたい。
一例として白浜ではIoTおもてなし実証として「顔認証」のシステムが進み、そこに登録すれば一切何もいらない。空港やホテルで特別なおもてなしが受けられ、食事やショッピングの際に顔認証による決済が可能になるようにしていく。
写真はイメージです。
生態系への影響が懸念されるプラスチック類ごみ問題への対策
3つめは海洋の問題となる。実際に海洋漂着物を調べるとプラスチックが多いことがわかっている。解決策としてはプラスチックごみの発生を抑制し、リサイクルを行うことが大事になる。
しかし、レジ袋をなくしても全体の解決にはならない。リサイクルをしにくいものがある。そのためには適正な分別回収を行うことが重要になるが、それをどのように最終処分するかを考えればサーマルリサイクルになる。そこで見通しのない過剰な分別は無意味と捉え、プラ類ごみも焼却できる炉を増やした。そこでの焼却熱はエネルギーとして吸収されていく。
実際に和歌山市では2016年4月からプラスチック製容器包装を「一般ごみ」として回収・焼却補助燃料である炉を増やし、焼却熱をエネルギーを回収することで焼却補助燃料である灯油使用量が約20%減少。1年間で約230万kWhを発電している。これは火力発電における原油約550キロリットルの節約に相当。また河川や海洋にごみを流出させないよう、ごみの散乱行為に対して政令や過料を定めた条例を制定した。それと共に命令等知事の強力な権限を委任された環境監視員を県内全域に配置し、県内をパトロール。環境監視員は、ごみの散乱行為を発見した場合、回収命令を発出。命令に従わなかった場合は過料の徴収も辞さない。今後も和歌山県は世界に誇る地域資源を保全・活用しながら国内外の方々との交流をさらに深め、環境問題の解決を念頭に置いて持続可能な地域を築いていく。