国連環境計画日本協会とエコ・ファースト推進協議会が連携強化について合意
        気候危機から脱炭素社会へ。新たな連携の在り方を語り合う

 活動のステージは互いに異なりながら、地球環境問題という共通するテーマを持つ国連環境計画日本協会(日本UNEP協会)とエコ・ファースト推進協議会のキーマンが対談。
 日本UNEP協会からは代表理事の鈴木基之氏、エコ・ファースト推進協議会からは事務局長の樋口正一郎氏がその活動内容や今後の連携について意見を交換した。

(左)エコ・ファースト推進協議会 事務局長 樋口正一郎氏 (右)日本UNEP協会 代表理事 鈴木基之氏(左)エコ・ファースト推進協議会 事務局長 樋口正一郎氏 (右)日本UNEP協会 代表理事 鈴木基之氏

全売上高60兆円のスケールを持つ企業集団

樋口:エコ・ファースト推進協議会は2008年に設立されました。企業が主に気候変動に対する取り組みを環境大臣に約束し、その認証を受けた企業がエコ・ファースト企業として選ばれ、現在50社が参加しています。その一社一社は日本で名だたる企業であり、加盟する「エコ・ファースト企業」50社の売上高の合計は海外を含め60兆円にものぼり、一定の社会的影響力があると認識しています。
 また加盟企業は様々な業種に及び、ゼネコンは現在6社が参加しています。議長会社は2年前から私が所属する戸田建設が仰せつかっています。2018年には設立10周年を迎え、「脱炭素社会の形成にむけて」、「循環型社会の形成にむけて」、「自然との共生にむけて」、「環境コミュニケーションの推進」という4つのカテゴリーで2030年ビジョンを策定しました。
 それぞれの企業が約束していることをSDGsの17ゴールにあてはめてみますと最も数が多いのが「気候変動に具体的な対策を」となり41社、次が「つくる責任つかう責任」、その次に「緑の豊かさを守ろう」が36社となっています。
 今年、前小泉環境大臣に対して、議長メッセージを手交いたしました。残念ながらコロナ禍のためフェイスtoフェイスではなく、オンラインだったのですが大臣もリアルタイムで出席されて、今井議長がメッセージを読み上げ、我々の決意をお伝えしました。
 協議会ではその年の話題をテーマにして、シンポジウムを開催しています。今回のテーマは「気候危機と脱炭素社会」として準備を進めております。

「Making Peace with Nature(自然との仲直り)」の日本語翻訳版を出版

鈴木:ありがとうございます。では次に私の方から日本UNEP協会についてご紹介させていただきます。国連の中には、いろいろな専門機関や計画、基金というものがあるのですが、その一つが国連環境計画、つまりUNEPです。UNEPは1972年にストックホルムで開催された国連人間環境会議の提案を受け、設立されました。既に世界気象機関(WMO)や世界保健機構(WHO)など環境問題につながる様々な機関があり、それらと連携を図りながら、環境に関する統一的な議論を国連の場で行うことなどを目的に設立され、まもなく50周年を迎えることになります。
 国連の機関の本部はパリやウイーン、ニューヨークなどが多いのですが、UNEPの場合は国連では初となるケニアのナイロビに設けて途上国に光を当てていることも特筆すべき点だと思っています。
 そういったUNEPの日本における活動の普及を図るとともに、UNEPを通じて日本と海外の持続可能な環境ネットワークをつくるため基本合意を結び、誕生したのが一般社団法人日本UNEP協会です。正式名は「国連環境計画日本協会」となっています。
 スタートしてようやく6年目、まだまだ力不足のところもあるのですが、多くの方からご協力をいただきながら活動を進めてきております。
 今、力を注いでいるのがUNEPの統合報告書である「Making Peace with Nature(自然との仲直り)」の日本語翻訳版を、より多くの方々に読んでいただくことです。その告知も行いつつ、全国の教育機関、公共施設に無償配布するために、クラウドファンディングも実施したところです。
 2021年2月にオンラインで開催された第5回国連環境総会(UNEA-5)にてこの統合報告書が発表されました。その完全翻訳版が本書です。本書には、気候変動・生物多様性・汚染の危機に立ち向かうための科学に基づいた構想が綴られています。
 国内でもSDGsなど関心は高まっていますが、今後は具体的な行動が鍵になります。そういった中でこの中に示されておりますのは、自然に基づいた解決法です。
 ここには人々の健康と幸福を守るため地球を“修復”するには、どのように行動すれば良いかといった科学的知見に則したヒントが散りばめられています。
 実際に企業の環境やCSRの担当者はもちろん、一般の人たちや若い世代の人たちも含め、わかりやすく読める教科書になるよう翻訳いたしました。

樋口:「Making Peace with Nature(自然との仲直り)」は、私も読ませていただきました。膨大な調査と綿密な分析に基づいて、今、だれが、何をしなければならないかが書かれています。我々民間企業が脱炭素へ向けての取り組みを行う際に指針となるレポートであると思います。

  • 樋口正一郎氏樋口正一郎氏
  • 鈴木基之氏鈴木基之氏



「Making Peace with Nature(自然との仲直り)」日本語翻訳版(2021年9月発行)
https://j-unep.jp/publications/#24

新しいパラダイムの確立が重要な鍵

鈴木:UNEPには生物多様性条約や絶滅危惧種の取引を防止するワシントン条約などの種々の多国間条約の事務局もあり、その活動と連携する日本UNEP協会の活動範囲も多岐に及びます。また我々の協会にはイオンさんやトヨタさんなど熱心にサポートしていただいている企業が何社かあります。そのような企業の方々といろいろな意味で連携を深めながら、例えばさきほど申し上げた国連環境総会にご参加いただくなど、エコ・ファースト推進協議会に集われる企業の方々もぜひ我々の活動にコミットしていただければと思います。
 ところでエコ・ファースト推進協議会では、企業間の連携はどのように行われていますか。

樋口:消費者向けの小売りの企業で企業間の連携が活発に行われています。ライオンさんやキリンさんのエコ商品をユニーさんの店頭で販売するなどが一つの事例です。我々、建設業も加盟ゼネコン6社が集まって意見交換をはじめたところです。建設業が脱炭素社会の形成に果たすべき領域は広く、かつその責任は重いと考えています。コンパクトシティに代表される、エネルギーが自給自足できるような都市形成や、ニューノーマルな世界になったとの都市の在り方についても提案をしていかなければなりません。
 その際には、加盟企業でモビリティー関連企業の皆様のノウハウも必要となり、さらに活発な異業種連携が進むと思います。

鈴木:企業間の連携という点では、バリューチェーン全体でカーボン・オフセットやカーボン・マイナスをどうするのか、ということについても考えざるを得ない状況にあります。そういった観点からのアップグレードがエコ・ファースト推進協議会でできるようになると環境省とも連携しながら、新たな突破口を開いていただけるのではないかと思います。

樋口:エコ・ファースト推進協議会は環境省との連携が強く、環境省の考える政策への協力を行うとともに、それに対して意見を言える立場にあります。さきほど環境大臣に対してのメッセージもご紹介しましたが、脱炭素社会の形成に向けて民間企業の考えをダイレクトにお伝えするのもエコ・ファースの役目であると考えます。

鈴木:企業が自由に活動することで民の活力は広がるでしょう。環境面に関しても自由な発想を民間企業に期待したい。その推進役としてもエコ・ファースト推進協議会にもより一層、頑張っていただきたいと思っております。
 その上でお願いしたいのは大胆なパラダイムシフトです。市場経済の成長だけではなく、新しいバラダイムで進んでいくことこそ真の「エコ・ファースト」になるのではないでしょうか。新しいパラダイムの確立は民間、特に市場の役割が重要になると思います。これは政府や地方自治体というわけにいかないし、消費者個人でも難しい。やはり、企業の力とその連携が必要です。

持続可能な流れを次世代に

樋口:ご指摘のように今日のような気候危機を招いたのが確かに市場経済の成長を優先してきた点にあると思いますが、社会も若干変化しつつあるように感じています。例えば、戸田建設の取引先である不動産関連企業や工場系のお客様が、建物を造る際のCO2排出量を注視され始めています。建物を造る際のCO2排出量は戸田建設のScope1,2でり、同時にお客様にとってはScope3になります。つまり、産業界のサプライチェーン全体での脱炭素を目指す動きが進み始めていることを感じます。

鈴木:今後さらにその流れが大きくなることを期待します。持続可能な流れというのは10年20年というスパンではなく、100年200年でプラスかマイナスかを判断されると思います。その意味で世代を超えた検討ということが求められていますし、新しい世代とどう関わっていくかも重要だと思います。
 日本UNEP協会では年に1回、青山にあります国連大学で「UNEPフォーラム」を催しており、多くの民間企業の方々にも関心を持っていただいています。
 それとは別に、11月20日に計画しているのは、別の形のUNEPフォーラムです。これは東京新聞との共催で、若い世代への発信を主軸にしたオンラインイベントになります。今、Z世代と言われる20代の方々が2050年には50歳代になり、ちょうど社会の中心として活躍する時代になります。しかし、地球が今のままですと壊滅的な状態になっている可能性は大いにあります。
 今、大きな転換をしなくてはならない状況にあります。そういったことを視野に入れ、先ほどの「Making Peace with Nature(自然との仲直り)」を読み解きながら、若い人を中心としたフォーラムを開く予定です。
 ご承知のように、2019年に国連気候行動サミットでスピーチしたグレータ・トゥーンベリさんなど多くの若い世代が世界各国で身を投げ出して活動をしておられます。しかし、将来の地球環境に危惧しながら、自分たちが何をしたらいいかが、わからないという若者も少なくありません。そのためにもこのフォーラムでは高校生のほか、20代の代表者たちが自分たちの取り組みや直面している課題などを率直に述べ、議論していただくという内容を計画しています。

樋口:話題が変わりますが、エコ・ファースト推進協議会は、小中学生からエコに関することわざを集めまして、それを皆さんで評価し、優秀作品を選ぶことわざコンクールを実施し、今回で第12回となります。今年は1,419作品が応募され、全国から注目を浴びています。
 このコンクールを通して、環境について考える機会を全国の小中学校に提供することで、国民の環境意識の啓発に寄与したいと考えています。

鈴木:エコ・ファースト推進協議会と日本UPEP協会はいろいろ接点がありそうですね。
 今後も連携を深めていきたいですね。

樋口:こちらこそ、ぜひお力をお借りしたいと思います。