環境面の基準だけではなく、社会面にも配慮した調達を促すことを目的にフェアトレード認証商品も重視し、その推進に取り組むグリーン購入ネットワーク(以下GPN)。その理事である認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン(以下FLJ)のシニアディレクター中島佳織氏にインタビューし、フェアトレードの普及活動の現状や企業などの取り組み方について聞いた。
商品の魅力を高め、フェアトレードを一般消費者に浸透
――現在 FLJの主な活動内容を教えてください。
FLJは「フェアトレードインターナショナル」という国際組織の日本メンバーであり、国内でその認証ラベルの管理・推進していく役割を担っています。最終製品にフェアトレードの認証ラベルを表示するには、企業や団体など、一連のサプライチェーンのフェアトレードの国際基準遵守が必須となります。そのためのチェック機能を果たしているのもFLJです。
――企業や団体が通常の調達をフェアトレードに切り替えていくには、どのような課題があり、それは、どうすれば克服できるとお考えでしょうか。
フェアトレードは国際認証という仕組みであり、そこに明確な基準があります。その中で重要になるのがサプライチェーン全体での関わりです。1つの商品が店頭に上がるまですべてのサプライチェーンの皆さまが基準を守って初めてフェアトレードとして認証されます。そこには、通常の商品にはないコストが掛かります。フェアトレードを継続していくためにも、ビジネスとしてしっかり利益を出していくことが求められます。フェアトレードに対して意識の高い人の中には、認証された商品であるだけで購入してくれる人もいるかもしれませんが、多くの人はそうではありません。当然ながら、多くの人に購入してもらうためには、商品力が問われます。そこは通常の商品と同様です。
いまは若い世代を中心に、商品の品質やデザインなどに加え、どのように作られたものなのか、背景やストーリーが商品選びのポイントになってきています。商品力の高いモノづくりに、生産背景が見えるフェアトレードが結びつくことで、選ばれる商品にしていくことができると考えていますし、きちんと売上を作り、フェアトレードの認証に掛かるコストを賄える利益を出せるとわかればサプライチェーン全体を変えていくことも不可能ではありません。
(オンライン取材を受ける中島佳織氏)
社会的な意識の醸成につながる地方自治体の取り組み
――地方自治体ではGPNの会員である愛媛県内子町が、グリーン購入の調達方針の改定にあたり、フェアトレード認証商品を対象品目に加えたと伺っております。また同じくGPN会員の名古屋市は、政令指定都市として初めてグリーン購入ガイドラインにフェアトレード認証商品を加えました。地方自治体がフェアトレードに取り組むことでどのような効果が期待できるとお考えでしょうか。
内子町はGPNの事務局ときめ細かく連携しながら、グリーン購入の調達方針の改定を進めてこられました。その際に公共のスポーツ施設や教育施設で使うサッカーボールとかバレーボールといったボール類にフェアトレード認証のあるものを調達することになりました。フェアトレードの基準には「子どもの権利の保護」および「児童労働の撤廃」も盛り込まれていますが、ボール類は以前から、生産過程における児童労働が問題となっていたのです。
一方名古屋市は、一定の条件をクリアし、フェアトレードタウンに認定されています。これは市民、行政、企業、小売店、学校など街全体でフェアトレードを応援する市町村、郡、県などの自治体となりますが、名古屋市は日本で2番目の認定となりました。そういった自治体だけに、様々な部署にフェアトレード商品が導入されています。名古屋市は職員の方が着る制服や帽子にもフェアトレードコットンで作られたワークウエアが導入されていますし、市の施設で提供される食堂の食材にフェアトレード配慮されたものを使うことがガイドラインに入っています。また市が運営する東山動植物園のおみやげにもフェアトレード認証商品が採用されています。
公共調達は貴重な税金を使うわけですから、価格を抑えることが求められますが、同時に人権、環境などSDGs調達の問われる時代となっています。その意味でもフェアトレード認証商品を用いることは大変意義深いと思いますし、社会的な意識の醸成につながると考えています。
100万人のアクションを達成した「ミリオンアクションキャンペーン」
――この5月は「フェアトレード月間」と呼ばれ、2021年は日本全国でフェアトレードに関する「商品購入」「SNS投稿」「イベント参加」などで合計100万アクションを目指すキャンペーンを実施されたと伺っております。どういった仕掛けが実施され、また反響はいかがだったでしょうか。
「世界フェアトレード・デー」は5月の第2土曜日なのですが、この日だけではなく、5月全体を「フェアトレード月間」と位置付けて盛り上げてきました。「ミリオンアクションキャンペーン」は、100万のアクションを目指すという横串のテーマを設けて行ったキャンペーンです。
一般的にフェアトレードのアクションと言えばフェアトレード商品の購入がすぐに連想されると思います。今回はコロナ禍で行動が制限される中ではありましたが、フェアトレードの食材を使った飲み物や食べ物などのスペシャルメニューを展開してくださったレストランやカフェの方々もいらっしゃいます。身近なお店やインターネットでの購入、カフェ・レストランでのフェアトレードメニューの選択などをアクションとして呼びかけました。
今回はSNSで人に伝えることもアクションと捉えました。共通のハッシュタグをつけて発信すれば瞬時にリアルタイムに今、どれだけの人が投稿をされているかとすぐに読み取れます。そのために我々のほうで共通のハッシュタグを設定し、「これでぜひ発信してください」と呼び掛けました。
また各企業や団体が実施しているリアルもバーチャルも含めたイベント等の参加数や動画の再生数などもアクションとして集計しました。その結果、5月1カ月間で119万以上ものアクションを集めることができたのです。
大人世代の意識の改革で“フェアトレード先進国”へ
――欧米各国のフェアトレード市場の広がりと比較すると、日本は“フェアトレード後進国”とも言われています。今後、日本がその汚名を返上していく上でまず大切なのは何でしょうか。
大人世代が変わることだと思います。若い世代は学校教育の中で学び、入試問題にも出題されていることからフェアトレードという言葉とその意味を学び、知っています。子どもがお店にフェアトレードの商品について聞いても店員がそのことについて知識がないことも多々あります。フェアトレードタウンの例にあるように、最も身近な地域という単位でフェアトレードの取り組みが浸透しはじめています。足元から大人たちの意識に直接的に働きかけていく流れが起こりはじめており、いまその流れが急速に全国に広がってきています。フェアトレードを「理念」で終わらせるのではなく、実際の取引や商品化、そして流通と、企業がビジネスとして実践していくこと。そして消費者の立場として、それを「選択」していくこと。“フェアトレード先進国”になるためにも、大人たちの具体的な行動がいまこそ求められているのではないでしょうか。
――本日はありがとうございました。