イオンは3月、プライベートブランドで販売するチョコレートで使用するカカオを、持続可能な裏付けが取れたものへと転換する目標を定めたと発表した。オンラインで開催した記者発表では、イオン(株)環境・社会貢献責任者 三宅香氏、認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン(以下FLJ)事務局長(現シニアディレクター)中島佳織氏、イオントップバリュ(株)取締役 商品開発本部長 久保田修氏が登壇。「カカオ調達に関する覚書」を締結するとともに、それぞれ説明を行った。
写真左) イオン(株) 環境・社会貢献責任者 三宅 香氏
写真右) イオントップバリュ(株) 取締役 商品開発本部長 久保田 修氏
フェアトレードを当たり前の日常にしていくために
フェアトレードとは直訳すれば「公平・公正な貿易」。つまり、開発途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入することを意味する「貿易のしくみ」となる。しかし、その先にある生産者の生活や労働改善と自立とが現実のものとなって初めてフェアトレードは存在価値を持つことになる。つまり、労働環境や生活水準が保証され、人権が尊重される「暮らしのしくみ」の実現がフェアトレードには欠かせない。
一方、我々の日常に目を向けてみるとどうだろうか。そこには日用品や食料品が、驚くほど安い価格で販売されていることに出会う。もちろん企業努力もあるだろう。しかし、その背景には生産国では正当な対価が支払われず、過酷な労働や貧困が強いられていることも事実だ。
一般社団法人日本フェアトレード・フォーラム発表資料によれば、日本でのフェアトレードの認知度は32.8%とまだ十分とは言えない状況にある。
我々が暮らしでフェアトレードへの意識を高めること。それが遠いようだが、海を越え、生産者の暮らしの改善へと波及していくことになるのではないだろうか。根本的な解決の糸口は、どちらも「暮らし」という視点にありそうだ。
「誰一人取り残さない」ことをキーワードとし、持続可能な世界のための共通言語であるSDGsが発表され、間もなく折り返し地点を迎える。そこに掲げた17のゴールの達成にはフェアトレードの背景にある不公平で不公正な問題の解決が必須であり急務となるだろう。
欧米ではフェアトレードの認知度も高く、日常的に商品が購入されている一方で、世界で指折りのチョコレート消費国とも言われる日本は残念ながら最低ランクの市場規模だ。その大前提には、フェアトレードと日常生活との接点があまりにも少ないことが挙げられるだろう。その突破口を開き、フェアトレードが当たり前という日常を創造していくために日々の生活を支えることを使命としているイオンが取り組みを推進することに重要な意義を持つ。
消費者との接点を持つ流通業に大きな役割
カカオ生産地は、貧困、児童労働、気候変動・森林伐採といった様々な深刻な課題が山積している地域が多い。たとえば世界のカカオ生産量の6割を占めるコートジボワールとガーナの2か国では148万人もの児童労働者が存在していると記者発表でFLJの中島氏は話す。
FLJは国際フェアトレードラベル機構の構成メンバーとして日本国内における、国際フェアトレード認証ラベルのライセンス事業、製品認証事業、フェアトレードの教育啓発活動を主に行っている特定非営利活動法人だ。
その国際基準では社会、経済、環境の3つを柱としている。児童労働は社会、貧困は経済、そして気候変動や森林伐採は環境に入る。中島氏はこの柱の中で貧困を引き起こす要因である経済に言及。コーヒーやカカオは相場で激しく値動きし、それは生産者が人間らしい生活をしていくための「リビングインカムレベル」を下回る場合も少なくないという。そういった中で国際フェアトレード認証では「リビングインカムレベル」が維持できる価格をトレーダー側が定めているかどうかも認証基準に設定している。
日本の市場でフェアトレード認証されたカカオ販売量は世界の0.16%に過ぎない。イオンが今回、国際フェアトレード認証等を取得したカカオを用いたチョコレートの商品量を大幅に増やすコミットメントを打ち出した意義は大きいと中島氏は話す。また、売場という消費者との接点を持つことでその普及に期待を膨らませる。
フェアトレードチョコレート100%をコミットメント
イオントップバリュ久保田氏はフェアトレードチョコレートが「お客さまを原点に平和を追求し、人間を尊重し、地域社会に貢献する」というイオンの基本理念と「お客さまの声を商品に生かす」といったトップバリュの5つのこだわりに基づいていると説明。会見の中でFLJと締結した覚書の内容にも言及。両者が互いに協力し、それぞれが持つリソースを最大限に活用した普及活動を推進することで、日本国内におけるフェアトレードのさらなる認知拡大と、開発途上国の生産者支援を図る。
今後トップバリュは同社がチョコレートで使用するカカオのすべて(調整品に含まれるカカオ原料を除く)を、2030年までに持続可能な裏付けが取れたものに転換する。その中間目標として2025年までに構成比で50%を目指す。まず既存商品の売れ筋を中心にフェアトレード認証へと変更し、今後、発売する新商品もフェアトレード認証の原材料を使用することを前提に開発する。
生産地の支援から売り場展開まで全力で挑む
イオンは2017年に持続可能な調達方針と目標を発表し、水産物や畜産物などでも個別の目標を立て取り組んでいる。しかし今回のカカオの調達に関する取り組みは、それらの取り組みとはまた異なる一面を持つ。イオンは、フェアトレードの拡大で、環境配慮の側面での持続可能性に加えて、人権を尊重した公正取引に基づき、適正価格で商品を購入して生産者の自立を支援する形での持続可能性も追求していく構えだ。「サプライチェーン全体で持続可能な事業を行うためには、法令遵守に加え、生産者の暮らしを守る公正な取引が不可欠です。なかでもコーヒーやカカオは、栽培適地が赤道付近に集中しており、投機対象にもなっていることから相場変動の影響が大きく、経済的・社会的に弱い立場である生産者の方々に負担がかかっています。」と環境・社会貢献責任者の三宅氏は話した。
さらに今回の取り組みが生産者の生活改善や人材育成、そして農業支援などのコミュニティ支援にも力が注がれていることを紹介した。同時に市場のボラティリティへの対応として、再生産可能な適正価格での取引も推進し、経済との両立を実現する取り組みと述べた。
1月に発表した「サステナブル・コーヒー」も含めてイオンは「持続可能」を裏付ける根拠を2つ挙げている。1つがイオンの認定する第三者認証を取得した原料を使用していること。もう1つが生産者や労働者の方々が抱える社会課題の解決に向けたプロジェクトをイオンが直接支援し、生産地の持続的な発展に寄与していることだ。この2つを確認して初めて「持続可能」なコーヒー豆やカカオとなる。
フェアトレード認証は生産地からの仕入れ、製品化、販売、そして消費者が商品を選ぶというすべてのプロセスを一貫する点に大きな価値がある。イオンは、店舗を介して消費者と直接的な接点を持てることを強みに、日々のお買い物で、倫理的かつ持続可能性に配慮されている商品を日常的に選択できる環境づくりを目指し、フェアトレードの日本国内での拡大に尽力している。