戸田建設株式会社は、茨城県つくば市にある筑波技術研究所内での環境技術実証棟を、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を超えるカーボンマイナス棟としてリニューアルし、2021年度より運用を開始することを発表した。
ここでは、そのプロジェクトを統括してきた同社技術開発センター 環境創造ユニットでマネージャーを務める村江行忠氏に同実証棟が生まれた背景やカーボンマイナスを目的とした意義などについて話を伺った。
消費エネルギーに含まれないCO2排出要因に着目
――まずは、ZEBのその先をいくカーボンマイナスの考え方についてお聞かせください。
村江:ZEBは、建物の運用段階でのエネルギー消費量を、省エネや再生可能エネルギーの利用を通して削減し、限りなくゼロにするという考え方がベースになっています。しかし、それが実現できたとしてもエネルギー以外の要素も含めたライフサイクル全体でのCO2の排出量がゼロになるわけではありません。
今回リニューアルしているカーボンマイナス棟(仮称、以下同じ)は、基準となる建物のエネルギーに対して、消費エネルギーを50%以上削減し、残りを太陽光などの創エネで賄い、差し引きゼロとすることでまずは、ZEBであることを満たしています。
その上で今回は、リニューアル工事や運用時のエネルギー消費、メンテナンスから解体に至るまでに排出されるCO2を木材や緑化で吸収することを目標にしています。また、現在のZEBの計算では含まれない自然換気や地中熱などの省エネルギーも実績ベースで加味していく計画です。
建物が造られ、維持されていく中ではCO2排出を増加する要因が様々あります。そこに木材などの低CO2資材への代替や木材によるCO2の固定化、太陽光発電などの再生可能エネルギーの利用、また緑化など植物によるCO2の吸収といった削減する要因を対応させることでCO2の排出量をゼロ以下にする――その考え方がカーボンマイナス棟にはあります。
ZEBからもう一歩進んだ環境配慮を目指した建物
――戸田建設様が、環境技術実証棟のリニューアルにおいてカーボンマイナスに取り組んだ背景についてお聞かせください。
村江:環境技術実証棟は2015年から計画し、2017年に竣工しました。その目的は新TODAビル(戸田建設の新しい本社ビル)をはじめ、社会にZEBをより多く提供していくため、幅広く環境配慮技術を実証するところにありました。そして、運用開始から今日まで外装熱性能、自然換気、潜顕分離空調など、多くの実証データを取得してきたのです。また新TODAビル計画に反映することもできました。
その意味で環境技術実証棟としては初期の目的を達成したことになります。このことは2015年の段階で実現できるという見込みがあったため、実は2020年から21年頃にリニューアルを行っていく計画が既にあったのです。そして、その頃にはZEBは一般的になってきていると予測していました。そこでもう一歩進んだ環境配慮を目指したのです。
また当社では建設工事によるCO2の排出量を2050年までに1990年比で80%削減していくという目標を立てていますので、今回の計画でもCO2排出量の削減という会社の方針と合致していく必要があります。その点にも力を注いだ建物としてカーボンマイナス棟を計画しました。
CO2削減の様々な要素を散りばめた実証棟
――同棟がカーボンマイナスを実現する上で大きな力となるものは何でしょうか。
村江:当社には“建築物のCO2削減にホームランはない”という考え方があります。ではどうすればいいか。それは小さなヒットを積み重ねていくしかありません。そのために今回のリニューアルでは快適性と省エネルギーの両立を図れるタスクアンビエント空調や自然換気、AI制御などの多くの省エネルギー技術や太陽光発電、地中熱利用などの再生可能エネルギーを採用した他、CO2の吸収や固定化を期待できる緑化や木質材料を採り入れています。つまり、小さなマイナス要素を組み合わせることでカーボンマイナスを創り上げていると言えます。
その意味では、当社には様々な要素技術をトータルに組み合わせる総合力があることが、カーボンマイナスを実現する鍵になっていると考えています。
トータルに環境配慮に取り組む証として同棟は、既にBELS認証(ZEB)の取得や環境省の二酸化炭素排出抑制対策事業の採択は得ていますが、健康や快適性などに関するWELL認証(Gold)をはじめ、省エネや環境負荷の少ない資機材の使用といった環境配慮などを総合的に評価するCASBEE認証(Sランク)の取得申請も現在進めています。
カーボンマイナスを時代のスタンダードへ
――今後、同棟で得られたカーボンマイナスの成果が実際の建築で実践できるのはいつぐらいとお考えでしょうか。
村江:既に環境技術実証棟の成果は外装の仕様(低負荷外装)や光環境制御の照明(体内リズムに配慮した調光調色制御による、在室者の快適性・生産性の向上に寄与)などをお客様の建物でご採用いただいています。カーボンマイナスというステージでもすぐにご提供できる技術もありますが、AI制御といった今後まだまだ実証が必要なものがあります。またコスト面でも現状で商業ベースに乗せるには難しいものもあるでしょう。
しかし、今後、カーボンニュートラルやカーボンマイナスをお考えの企業のニーズには十分に応えられる仕様にはなっていますし、実証棟に加えカーボンマイナス棟でもデータを収集していきますのでお客様に対してエビデンスをもって提案できると思っています。
――国内はもちろん世界が2050年カーボンニュートラル達成の方向へ今、進んでいます。カーボンマイナス事業はその流れの中でどのような成果とインパクトを与えていくとお考えでしょうか。
村江:ZEBというエネルギー面だけではなく、CO2の排出を削減する建築物としては、先駆け的な存在となり、多少なりとも注目はしていただけるのではないかと考えています。今、消費するエネルギーやCO2の排出に対して関心のない企業は少なくなってきていますので、
より多くのお客様のお役に立つことができればと思っています。またZEBが珍しくなくなった現在のように、やがてカーボンマイナスもスタンダードになる、そういった時代となっていくための一つの契機になることを願っています。
――本日はありがとうございました。