「UNEPフォーラム2022」がオンラインで開催

2022.7.27 掲載

6月14日、国連環境計画(UNEP)と国連環境計画日本協会(一般社団法人日本UNEP協会)主催の「UNEPフォーラム2022」がオンラインで開催された。2015年以来、継続的に開催されている同イベント。今回も様々な団体や企業、そして若い世代など多彩な顔ぶれが登壇し、幅広い視点からプレゼンテーションなどが行われた。

UNEP事務局長の
インガー・アンダーセン氏がメッセージ

冒頭に、主催者を代表して日本UNEP協会代表理事の鈴木基之氏が挨拶。続いて環境省地球環境審議官の正田寛氏、外務省地球規模課題審議官(大使)の赤堀毅氏からのビデオメッセージが紹介された。正田氏はUNEPへの期待と海洋プラスチックおよび生物多様性問題に関する今後の取り組みに触れ、赤堀氏はUNEPと日本UNEP協会に携わる人々への謝意を示すとともにCOP26に関する我が国の成果を伝えた。

次にUNEP事務局長のインガー・アンダーセン氏からのメッセージを、UNEP-ROAP(アジア太平洋地域事務所)所長であるデチェン・ツェリング氏が代読したビデオが放映された。ここではその全文を掲載する。

ご列席の皆様

「UNEPフォーラム2022」において、国連環境計画(UNEP)の事務局長であるインガー・アンダーセンからのお祝いの言葉をお伝えさせていただくことを光栄に思います。そして鈴木代表理事、吉村事務局長には、UNEPの重要な課題に目を向ける機会を作っていただきありがとうございます。

「持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた自然のための行動強化」をテーマとするUNEA-5.2(第5回国連環境総会 再開セッション)において、日本がリーダーシップをとり、貴重な貢献をしてくださったことに感謝いたします。また、UNEPの50周年記念行事(UNEP@50)への貢献も嬉しく思っております。

UNEA-5.2では、海洋プラスチック汚染を始めとするプラスチック汚染対策に関する法的拘束力のある国際文書(条約)について議論するための政府間交渉委員会(INC)設立に関する決議が採択されました。それに際し日本政府が、プラスチックのライフサイクル全般をふまえた幅広いアプローチを提言したことに感謝いたします。

「Stockholm+50」会議は、1972年開催の国連人間環境会議から50年を記念して、6月初旬にスウェーデンのストックホルムで開催されました。テーマは「全ての繁栄にとっての健全な地球―我々の責任と機会」です。世界のリーダーたちが、地球環境問題に緊急に取り組むことを真摯に約束し、持続可能な経済への移行を呼びかけました。

「Stockholm+50」で出された提言は、現在の経済システムを包括的に変え、影響の大きいセクターの変革を加速させる必要があるというものでした。社会全体で意欲的に取り組まなければならないのです。

天然資源の需要は、生産可能な量を上回っています。私たちは9ヶ月たらずの間に、1年間に生産する量以上を消費し、その消費量は増え続けています。この危機は、私たちの努力のスピードを上回る勢いで加速しており、危機に先回りして立ち向かうには、これまで以上に、あらゆるレベルでより大きな志と行動が必要です。

UNEPは、日本UNEP協会や日本の方々と積極的に手を取り合い、地球と人類が直面している自然、気候、汚染の問題に取り組む所存です。私たちの目の前で繰り広げられている課題は、どの地域でも決して他人ごとではありません。地球はすでに存亡の危機を迎えているのです。

UNEPは、プラスチック汚染に関する問題、自然保護活動、循環型経済の推進など、主な地球環境問題に対する日本のリーダーシップと努力をよく存じております。

このような場でご挨拶させていただくことを光栄に思い、あらためて感謝いたしますとともに、フォーラムのご成功をお祈り申し上げます。ありがとうございました。

団体や企業が地球環境への取り組みを
プレゼンテーション

続いて日本UNEP協会事務局長の吉村皓一氏は、2021年から2022年上半期までの同協会の活動を紹介した。地球環境戦略研究機関(IGES)戦略マネージメントオフィス ナレッジ・コミュニケーション ディレクター大塚隆志氏は、2月28日から同年3月2日にかけて、ケニア・ナイロビにおいて開催された「第5回国連環境総会再開セッション(UNEA-5.2)」と、続いて開かれたUNEP50周年を記念した「UNEP@50」、そして1972 年開催の国連人間環境会議から50年となる6月にスウェーデンのストックホルムにて行われた「Stockholm+50」のハイライト部分を振り返った。

企画セッションでは、環日本海環境協力センター(NPEC)の活動について主任研究員である寺内元基氏が紹介。NPECが複数の国に近接する海域の環境保護の問題に取り組むためUNEPが1974年に提唱した「UNEP地域海計画」の一つである北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)と連携し、海洋生物多様性や海洋汚染を含む沿岸・海洋などの特殊モニタリングや沿岸環境評価を行っていることに触れた。そしてその中から、人工衛星を用いた宇宙からの海洋環境監視活動についても利点などを説明し、気候変動観測衛星「しきさい」GCOM-Cへの対応についても紹介した。

企業の環境活動については、カネカ株式会社からGlobal Open Innovation企画部の福田竜司氏、栗田工業株式会社からは経営管理本部WRC推進グループの本幡照文氏がプレゼンテーションした。カネカの福田氏は100%植物由来で、海水中でも生分解されるカネカ生分解性バイオポリマーGreen Planet®についてクローズアップ。同素材は現状のカトラリーやショッピングバッグに留まらず、様々な用途に適用し、飛躍的に拡大させていきたいと語った。栗田工業の本幡氏は、企業理念の「“水”を究め、自然と人間が調和した豊かな環境を創造する」に沿う活動として参加している世界の水資源保全を行う団体Water Resilience Coalition(WRC)に言及。様々なグローバル企業が協働して進めている取り組みや同社の活動を紹介した。

若者たちの声に耳を傾けたフォーラム

続いて設けられた若者たちの取り組みでは、広尾学園高等学校の白石菜絵さんが登壇。2021年2月に発表されたUNEPの統合報告書『Making Peace with Nature~自然との仲直り』についての感想を英語でスピーチした。そこでは同報告書のセクション2にある「現在のような開発方法は人類の幸福を支える地球の有限な能力の低下を招く」に着目。植物性食品を中心とした食事法プラントベースド生活について、プレゼンテーションを行った。

まず畜産が環境に与えるデメリットとして、1)メタンガスの排出に伴う温室効果ガスの排出・大気汚染、2)糞尿の廃棄に必要な大量の水の利用・それに伴う水質汚染、3)過度な放牧による森林減少・生態系の崩壊の3点を列挙。逆にプラントベースド生活の利点として、1)アミノ酸スコアが高く、体への吸収率が高いタンパク質が含まれている、2)大豆イソフラボンは生活習慣の乱れによる体への負担を軽減する、3)肉の食べすぎは大腸ガンのリスクが高まる、という3点を強調した。また全国民がプラントベースドになれば廃棄される大豆製品を減らし、国内生産量をあげることが課題になると語り、自身が実際に一週間プラントベースドの食事を体験し、「想像していたよりも楽だった」と率直な感想を話した。

一般社団法人SWiTCH代表理事の佐座槙苗さんは「Stockholm+50に参加して〜スウェーデンのサステナブル先進事例に学ぶ」と題してプレゼンテーション。6月2日~3日に行われた「Stockholm+50」では、オープニングスピーチでスウェーデン首相の「若者たちの運動は、気候変動への移行において決定的な力となります。私たちはあなたたちを必要としています」という言葉が強く印象に残ったことを語った。またスウェーデンにおけるハンマビー・ショースタッド市内の循環型街づくりのためのゴミ箱やヴァックスホルム市の⼩学校のサステナブル教育、市内スーパーやハンバーガショップでの食品ロスに対する取り組みを紹介した。そして、それらの取り組みが日本でも十分に可能であり、やると決めた上でどうすれば実現できるかを考えていく大切さを強調。地球のことを自分ごとにするために「生活や仕事でサステナブルな商品やサービスを選ぶ」「企業や組織が本気で取り組んでいるか確認する」「環境に配慮する仲間とつながる」の3つのアクションを提案した。

最後に愛媛大学社会共創学部環境デザイン学科の榊原正幸教授(日本UNEP協会理事)が担当する「プロジェクト実践演習」の受講生が登壇。高岡奈々葉さん、武田有未さん、清岡大海さん、田村楓さんの4名が、『海洋プラスチックごみから視える社会問題』についてトーク・セッションスタイルでビデオ発表を行った。そこでは愛媛県の海洋プラスチックごみの現状や発⽣要因、そこから視える社会問題、環境問題に関する企業の背景や⽬指すべき社会などをテーマに議論し、自分たちの研究成果を発表。榊原教授はこのような若者たちが声を発する場の必要性を語り、発表を結んだ。

国際機関「世界経済フォーラム」の調べによると、ミレニアル世代のうち約半数は気候変動を問題視し、Z世代のうち約90%近くが社会問題及び環境問題を意識しているという。それは気候変動や生物多様性、そして海洋プラスチックごみなどすべての地球環境の課題は若者たちの未来と直結するからだろう。

日本UNEP協会では2021年12月に「ユース会員」を新設。過去のUNEPフォーラムにおいても若い世代にスポットを当て、今回はプログラムの最後に若者たちが発言する場を設けるなど次世代の活躍に重点を置いている。そういった同協会の若い世代に対する取り組みに共感し、今後も注目していきたい。