2022.5.30 掲載
「動脈」と「静脈」という言葉が産業界でよく用いられる。言うまでもなく製造業など製品を生み出す側が「動脈産業」であり、廃棄物を回収して再生・再利用、処理・処分などを行う産業が「静脈産業」に当たる。そして、ここ数年、地球の環境危機に対する様々な警鐘がさらに激しく打ち鳴らされる中、この「静脈産業」の在り方がより見直されてきた。
1957年の会社設立以来、60年以上に亘って、リサイクル(廃棄物処理)サービスを展開してきた三洋商事株式会社。同社は廃棄物の97%以上の 再資源化率(リサイクル率)を維持・継続し、「燃やさない、埋めない」リサイクルシステムに挑んできた。また2030年までにCO2排出量50%削減を目指し、全拠点では再生可能エネルギーを導入するなど様々な取り組みが進行している。その中で2008年には産業廃棄物処理業として初めて「エコ・ファースト企業」に認定され、2014年には『エコ・ファースト 環境メッセージEXPO2014』において環境大臣賞を受賞している。その代表取締役社長である河原林令典氏に地球環境を守るための取り組みやそこに注ぐ想いなどを伺った。
三洋商事株式会社 代表取締役社長 河原林令典 氏
手作業をメインにすることでリサイクル率を向上
――地球環境の悪化は産業革命から加速し、限界値を超えて回復不可能な状況に達してしまうことが懸念されています。そして、その原因は大量生産・大量破棄にあることは否めないでしょう。その解決の糸口となるのが循環型社会の推進であり、そこには三洋商事のような「産業廃棄物処理業」はますます欠かすことのできない存在となっていますが、御社の業務は他の廃棄物処理システムとどのようにちがうのでしょうか。
河原林:廃棄物と呼ばれるものは世の中にたくさんあります。事業活動で出る産業廃棄物や家庭のごみもそうでしょう。ビルの解体時にも大量の廃棄物が生まれます。そういった中で弊社は、通信設備やPC、各種OA機器などに特化し、リサイクルを行ってきました。ただし、その手法が他社とはちがいます。従来の廃棄物処理は、PCなどの機器類を機械で一気に壊し、それらを埋め立て、金属の一部を回収し、再資源化していきますが、弊社では人手による解体・分別を徹底することでリサイクル率を向上させています。
大型の機器なども入ってきますのでそのトラックの荷下ろしなど一部、重機を用いたり、クレーン車を使ったりしますが、その先の作業は以前から手作業で行っていますし、そのため、大型の焼却炉や破砕のプラントなどを所有していません。
以前には小型家電のリサイクルを新たな品目に加え、そのための破砕用のプラントを建てることも検討されたのですが、使用する電力が過剰になり、CO2の排出量も増えることから、環境に配慮する三洋商事の理念と合わなかったため、見送った経緯があります。
手で分解して、同じ種類に分けていくその作業をフローはプラモデルを逆に分解する作業をイメージすればわかりやすいかも知れません。部品の一つひとつが買ってきたプラモデルのような高純度の状態に戻ればビジネスとして売却益が上がりますし、同時にリサイクル率も高められます。
若手社員の発案から始動した「地球環境・未来創造部」
――令和2年に「地球環境・未来創造部」を創設されました。インパクトのあるその名称は、御社の理念である“地球に「ありがとう」を伝える”を体現しているように感じますが、この部門が誕生した理由と現時点での成果を教えてください。
河原林:この部署は石田部長自身の発案によって生まれました。彼とはまだ大学生で就活中のときに会ったのですが、まさに“地球に「ありがとう」を伝える”企業で働きたいと言っていったのをよく覚えています。そんな彼が入社して1~2年経った頃に本人から「やりたいことがあります」と持ち掛けられたのが「地球環境・未来創造部」でした。話を聞けばこの部署で“地球に「ありがとう」を伝える”ために弊社が事業活動や+αの取り組みを社会にしっかりと伝え、社員にも浸透させる活動をしていきたいというのです。
10年前はリクルート中の学生たちに見向きもされなかった会社でしたが、ここ数年、地球温暖化などが話題になる中で石田部長と同じく、環境問題に携わる弊社に興味を持って応募してくれる学生も増える傾向にありました。このような背景もありましたので理念に基づいた取り組みを内外に発信していく必要性も常々感じていたのです。そこで「やってみたい」という本人の強い意志があり、こういったことは、上から強制するのではなく、入社まもない若い社員が主体的に取り組むほうがより良く広まっていくのではないか、と考えて彼に賭けてみました。
実は私自身、入社して間もないころにこの理念がありました。しかし、よく理解できていなかったのです。当時は“地球に「ありがとう」”のキャッチフレーズの入ったTシャツも配布され、トラックの運転中も着ていたのですが(笑)。もしも、あの頃に「地球環境・未来創造部」があればちがっていたかも知れません。
成果としてはこの部署が自社のHPやSNSを通して発信し、会社見学を希望する就活生が多くなり、まずは採用に関する部分では貢献できているように感じますし、弊社の環境に対する取り組みに対する社員への浸透スピードも速くなりました。
(左)地球環境・未来創造部 石田部長 (右)河原林社長
地球環境・未来創造部 活動の様子
社員いっしょに楽しくSDGsに取り組む
――本年「Sanyoありがとうチャレンジ2030」通称「ありチャレ」をスタートしました。それはどのような取り組みになるでしょうか。また社員様の反応はいかがだったでしょうか。
河原林:2030年のSDGsの達成まで三洋商事でできることを考え、全従業員が参加してやっていこう!といった趣旨で「地球環境・未来創造部」のメンバーから提案があったプロジェクトです。そこでは産業廃棄物処理業者として4つの「SDGs目標」などが掲げられ、その目標達成や清掃イベントへの参加などをポイント制にして環境に配慮した商品と交換できるなどの企画案が出ています。まだスタートしたばかりですが、通称「ありチャレ」で社員から親しまれていますし、順調に進んでいるように感じます。何より、「ありチャレ」の語感が伝えるように楽しく、気負いすぎずに取り組んでほしいですね。
大切なことは私どもの事業活動自体がSDGへの貢献に直結しているわけですから、このことを通して自分たちの仕事に対する価値を再認識し、プライドを持てるようになってほしいと思っています。幸い、今の若い世代はSDGsという言葉も学校で習っていますし、リサイクルにも敏感ですから、それが行動につながる環境を用意すれば自発的に動くことができるのではないかと期待しています。
会社の目指すべき理想像が凝縮した経営理念
――最後に経営理念“地球に「ありがとう」を伝える”に込められた社長の想いを教えてください。
河原林:私は三洋商事の本社がある東大阪市で育ち、16歳から17歳の頃はよくアルバイトをさせていただいていました。仕事内容はハードでしたが日払いでその年齢の若者としては高めのアルバイト料がもらえるのが魅力だったのです。ただその頃の弊社は昔の悪しき産廃業者のイメージそのものでした。その後、20歳を過ぎてから正社員として働き、以後20年以上、産業廃棄物処理の業界にいますが、変化しない会社は消えていきました。もしも弊社もあの頃のままであれば今、存在していなかったと断言できます。そして、これからも変わりゆく弊社の目指すべき理想像が凝縮している言葉が“地球に「ありがとう」を伝える”ことだと思います。
弊社では、採用に際して望む人物像は“ええやつ”と掲げています。そこには、学歴や能力よりも、コミュニケーションが取れて、三洋商事の仕事に興味を持って楽しく長く仕事をしたい人を望む想いが注がれています。その言葉を借りれば“地球に「ありがとう」を伝える”は地球にとって“ええやつ”になろうという決意表明になるかも知れません。
――若い世代の発想を取り入れ、これからも変革を目指す三洋商事。そのことで重要な静脈産業である産業廃棄物処理業の新陳代謝がさらに加速することを期待しています。
本日はありがとうございました。