長谷工グループはCSRの目指す姿として「住んでいたい空間」「働いていたい場所」「大切にしたい風景」「信頼される組織風土」という親しみやすく、イメージしやすい表現で4つのCSR取り組みテーマを掲げている。今回は長谷工コーポレーションのCSR部長の深水行子氏に「大切にしたい風景」にスポットを当てて、オンラインインタビューで詳しく聞いた。
マンション業界のリーディングカンパニーが担う、環境への責任
――長谷工グループ独自の4つのCSR活動が生まれた経緯を教えてください。
深水:長谷工グループがCSR活動として何をすべきか、そして何を優先すべきか。そこから議論が始まりました。そこで重要課題を特定していくことから着手したのです。そのマテリアリティを抽出していくにあたりまず、社会軸としてステークホルダーから求められているものと、事業軸として長谷工グループとしての重要度の高い項目を挙げ、マッピングをし、一つひとつ評価をしていきました。
そういった中で、最終的に長谷工グループとして取り組むべき重要課題26項目を決め、それらの項目を整理することで4つのCSR取り組みテーマにまとまったのです。
――その中の1つ、「大切にしたい風景」には長谷工グループのどのような思いが込められているのでしょうか。
深水:弊社はマンションのトップメーカーとして、これまでに65万戸超を施工してきました。この規模になりますと環境への影響は大きくなるでしょう。そういったことを意識すれば、事業活動を行っていくプロセスの中で環境に配慮していくことは当然だと思います。その責任と使命を自覚し、真摯に取り組んでいくために目指すべきものを「大切にしたい風景」として集約しました。
協力会社との信頼関係がCSR活動を推進
――CSR活動の取り組みに対し、協力会社の理解はどのように得られたでしょうか。
深水:長谷工コーポレーションには協力会社の組織として「建栄会」があり、292社所属しています。これは四半世紀以上の歴史がある組織です。この「建栄会」と私どもの建設・設計・技術部門が“四位一体”で品質管理を実施してきました。
また、この体制の中で、労務省力化や作業効率化などを目的とした活動として「バリューアップ活動」を継続実施しています。そしてその組織体制の中にCSR委員会を設置し、長谷工の考え方を協力会社と共有してきました。そういった土台があるのでCSR活動に対して協力会社も理解がしやすかったという背景があります。
これを受けて建設作業所では、ペットボトルのキャップを回収し、地球環境の改善と世界の子どもたちへのワクチンに充てていく「エコキャップ運動」の取り組みを展開している他、運搬車両の省燃費運転の推奨や現場周辺の清掃活動なども協力会社を交えて定期的に実施しています。
また、ごみの分別についても協力会社を含めて全社で行っています。以前から長谷工グループでは環境に対する取り組みを継続しており、また「建栄会」との厚い信頼関係があったおかげでそういった活動はスムーズに受け入れていただけたと思っております。
――長谷工グループは11月より建設作業所から発生する木くずを再生可能エネルギーに利用しています。
この取り組みにはどのような意義があるでしょうか。
深水:建設作業所では巾木やシートフローリングの端材をはじめ、数多くの木くずが出ます。今までも出た木くずの大部分は廃棄せずに循環資源として活用していましたが、新たな資源循環用途として、バイオマス発電の燃料に利用することになりました。
バイオマス発電施設で発電された再生可能エネルギーは建設作業所の仮設電力として使用します。再生可能エネルギーの利用を取り込んだ資源循環を実現することで、化石燃料を主体とした火力発電に比べて10%のCO2排出量の削減を見込んでいます。
マンション建設に木材を活用し、グッドデザイン賞を受賞
――住宅業界ではZEH(ネットゼロエネルギー住宅)などに力を注ぐ企業が増えていますが、長谷工グループではどのような物件がありますか。
深水:ZEH-M(ゼッチ・マンション)の取り組みがあります。
ZEH-Mとは、断熱性の向上、高効率設備やシステムの導入、再生可能エネルギー設備の導入により、エネルギー収支ゼロを目指したマンションです。
直近の具体的な取り組みとしては、「ルネ南柏駅前」が挙げられます。この物件は「高層 ZEH-M支援事業」への採択が決定しておりますし、住宅・建築物の省エネルギー性能を評価・表示する第三者認証制度である「BELS」(ベルス)において「最高ランク」を取得しています。
――ZEH-Mの他に「大切にしたい風景」の取り組みはマンションでどのように反映されていますか。
深水:マンション建設における木材の活用が挙げられると思います。木材の活用がサステナブルな社会環境を構築する上で注目されていますが、長谷工グループにおいてもマンション建設で木材を用いていくために「木造推進委員会」という組織が立ち上がっています。
実際にマンションの共用部に木材を使用した具体的な物件が2つあります。「ルネ横浜戸塚」は、共用棟で働いたり、学んだり、寛ぐこともできるワーキングラウンジに木材を用いているのが特徴です。木造の大きな屋根が印象的で同じくテラス席のあるデッキスペースにも木を用いていて、カフェのような気分で過ごせます。この共有空間「ザ・ルーフ」は2020年度のグッドデザイン賞を受賞しました。
また、2021年に竣工する物件にも共用部分に木材を使用するプロジェクトがあります。このことで森林資源を有効活用でき、さらに森林業の活性化にも貢献できます。森林業が元気になれば森という「大切な風景」を次世代に残し、増やしていくことができます。
各社の多様性を活かし、グループ全体としてCSRを展開
――グループ各社が一丸となってCSR活動を推進していく上でどういったことを重視していますか。
深水:長谷工グループにはマンション建設を中心に販売や管理などを担う様々な会社があり、各社によってCSRの視点も違ってきます。ですから、それぞれの部門や企業の多様性を活かしながら、しっかりと意思疎通を図ることが大事だと考えています。
そのために各社・各部門からCSR委員を選出し、年に4回ほどミーティングの機会を持っています。そこで出された意見をもとに4つのCSR取り組みテーマに対しても、一つひとつ確認しながらPDCAをまわしております。そのことでお互いの立場を尊重し合いながら、お互いが納得し、グループ全体として良い方向に向かっていることを実感しています。
そしてグループが一つになって「大切な風景」を広げていきたいと考えています。
――本日はありがとうございました。