コロナ禍において我々は変化に対応できるしなやかな強さーーレジリエンスを求められてきた。組織においてその武器となるのは、多様な人材であることは疑う余地はないだろう。また多様な人材を受け入れられる組織自体が、すでにレジリエンスの素地を持っているといえるかもしれない。
ここでは国籍、年齢、性別、経歴等に関係なく、一人ひとりがいきいきと活躍できるグループを目指すイオンダイバーシティ推進室で室長を務める藤田紀久子氏にインタビュー。イオンが進める様々な活動などについてオンラインで伺った。
女性の管理職比50%を株主総会で宣言
――イオンのダイバーシティへの取り組みが加速したのはいつ頃からでしょうか。
藤田:ダイバーシティという言葉こそ使っていませんが、イオン株式会社の前身であるジャスコ株式会社設立当時から国籍・年齢・性別等に関わらず、能力と成果を重視する基本的な人事の考え方がありました。さらに当グループが合併を重ね、緩やかな連携を保ちながら成長してきたことが示すように、多様な価値観を認めるという風土が培われていきました。
2013年5月の株主総会で岡田元也社長(現会長)が株主様に向けて「女性の管理職比率を2020年までに50%にしていく」というコミットメントを発表しました。
これは社会正義のためではなく、経営の観点でダイバーシティを捉えた宣言であり、7月にはグループ全体のダイバーシティ推進役として社長直轄のダイバーシティ推進室が設置されました。
――イオンはユニークな“ダイ満足”というキーワードのもとにダイバーシティへの様々な取り組みを進めています。これによってどのような成果が得られたでしょうか。
藤田:当社が目指すビジョンを、ダイバーシティが生み出す、従業員・家族、お客さま、会社の満足、即ち“ダイ満足”として、そのスムーズな浸透を図っており、この言葉によって様々な取り組みが社員に受け止めやすくなっているのではないかと思います。
たとえば当社ではダイバーシティ経営を実現していくための教育「“ダイ満足”カレッジ」やグループ内のダイバーシティ推進のベストプラクティスを称える「“ダイ満足”アワード」といったイベントでも、意識的にこの言葉とロゴを使用しています。多様な業態のグループ会社の従業員同士が、会社の垣根を越えて学び合い、先進事例を共有し合うことで、ダイバーシティ推進を加速させていきます。
無意識の偏見をなくす取り組み
――今、ダイバーシティを推進していく上で直面している課題や今後、力を入れたいものは何でしょうか。
藤田:女性管理職比率は現在グループ全体27%ですが、次期中期計画中の継続課題としています。女性の管理職登用は、ダイバーシティ推進を象徴する重要テーマでありますが、多様な人材からなる強い組織を目指す時に、障がい者や高齢者、外国籍など様々なバックグラウンド、スキル、価値観等をもつ人材を起用していくことも大切だと考えています。
今後取り組むべき課題を挙げるとしたら、アンコンシャスバイアスという無意識の偏見があります。たとえば、男性の部下と女性の部下に対して、会社の将来を担う人材として、同じ期待感を持って育成されているでしょうか。現実には上司の方々によって様々であり、これは女性の上司でも同様のことが言えるでしょう。
無意識の偏見ですから、気づいていない場合や、良かれと配慮したつもりで行っていることがあるかもしれません。女性への気遣いと勘違いして「小さなお子さんがいるからこの仕事は無理」と決めつけず、まず本人の意向を聞いてみることが必要ではないでしょうか。こういったことを是正するには、この無意識の偏見に気づき、率直なコミュニケーションをすることが大切であり、その根本になる上司と部下の信頼関係が一層問われると思います。
「営業時間が長いから、女性には店長は無理」などと思考停止せずに、グループ企業の経営層が率先して、業務自体の見直しや働き方を改革することで、誰もが能力を発揮できるような先進的な事例も出ています。
人材育成のキーパーソンを育てる「イクボス」検定
――社内インフラの部分でダイバーシティが推進されやすい取り組みはありますか。
藤田:ダイバーシティ経営実現の要は「管理職」だと思います。その部門の上司自身が同じ職場にいる多様な人たちに対してどのようにモチベーションを上げ、部署全体の成果を上げていくか、そこに必要なノウハウやスキルを向上させていくため「イクボス検定」という独自の取り組みがあります。
「イクボス」とは、部下のワークライフバランスを尊重し、その人のキャリアの確立を応援する上司のことです。上司自身も、ワークライフバランスを大切にしながら、組織としての成果を出していることがポイントです。「イオンのイクボス」の育成をグループ全体で取り組むため、毎月19日を「イクボス」の日と設定し、グループの管理職を対象に、必要な知識・行動について、PCやモバイルで手軽に測定し、「理解」したことを「行動」できる仕組みです。現在、グループの中で2万5000人ほどの「イクボス」が誕生しています。このように上司自身が変わることで、多様な従業員が働きやすい環境を整えていくことが風通しのよい企業風土を持たらすものと考えています。
多様な人材が企業の持続可能性に不可欠
――ダイバーシティを推進していくことが、なぜ持続可能な企業づくりに結びついていくと考えていますか。
藤田:現在イオンでは1万人以上の女性管理職が活躍し、8,000人を上回る障がいを持つ方々がともに働いています。多様な立場から優れた人材を採用することで変化に対応できる強い組織にしたいと考えています。
さらに昨今では、若い世代を中心に、ダイバーシティを推進する企業を、自分の能力発揮する場として注目しているようです。優秀な人材が集まり、持続可能な強い組織をつくる上でも、ダイバーシティを推進していくことは企業の存続にとって欠かすことができない重要テーマになってきていると思います。そしてその歩みを進めることが、刻々と変化するお客様のニーズに応え、私たちが大切にしている「お客さま第一」を常に実現し得るのだと思います。
――経営という視点からダイバーシティに取り組み、その結果として企業の使命も果たすことが可能になるということですね。本日はありがとうございました。