既成概念にとらわれない発想で環境負荷軽減に取り組む 株式会社エコリカ

 日本で初めて使用済みインクカートリッジを回収する仕組みをつくり、リサイクルインクカートリッジの新しいビジネスモデルを構築した株式会社エコリカ(以下エコリカ)。その代表取締役社長を務める宗廣 宗三氏にインタビューし、環境負荷軽減に賭ける熱い思いを伺った。

アメリカで出会った新しいビジネスモデル

――エコリカの設立は、アメリカでリサイクルインクカートリッジのビジネスと出会ったことがきっかけだと伺っています。そこには、どのようなお考えがあったのでしょうか。

宗廣:私が興したパソコン周辺機器などを販売する株式会社エム・エス・シー(以下エム・エス・シー)の業歴が約20年になって、ある程度軌道に乗っていた頃です。当時、レーザープリンター用のリサイクルトナーは存在していましたが、リサイクルインクカートリッジを発売するメーカーが国内にはなく、なぜないのかと疑問に思っておりました。インクカートリッジはほとんどがプラスチックでできていますが、使い終わればそのまま捨てられてしまいます。それを見て、常々もったいないと感じていたのです。  そういった中、たまたまアメリカでパソコンメーカーが主催する会議に参加した際にヒューレット・パッカードの使用済みインクカートリッジを回収し、リユースするビジネスがあることを知ったのです。欧米ではリサイクル意識が高く、すでに同社のリサイクルインクカートリッジは市民権を得ていました。そこでこういったビジネスモデルを日本で構築できないか考えたのです。

株式会社エコリカ 代表取締役社長 宗廣 宗三 氏

株式会社エコリカ 代表取締役社長 宗廣 宗三 氏

あえて独立した組織でリサイクルインクカートリッジを普及

――エム・エス・シーとは別にエコリカを立ち上げた理由は何でしょうか。

宗廣:使用済みインクカートリッジを回収し、リサイクルインクカートリッジの製造や販売、ユーザーサポートを行いながら社会へ環境問題の意識を啓蒙していく――そういった一連の活動を軌道に乗せていくには一つの部門ではなく、独立した組織体制を作ったほうが良いと考えたのです。
 またエム・エス・シーは家電量販店・PC専門店などに卸販売を行う商社機能を持つ企業ですが、リサイクルインクカートリッジを普及させていくために、メーカーとしてのブランドを育てていく必要性も感じていました。そこで2003年にエコリカを設立したのです。

再生インクカートリッジ部門でエコマーク認定第一号に

――リサイクルインクカートリッジのビジネスを日本に導入していく上で重視したのはどういった点でしょうか。

宗廣:環境に配慮した商品ですのでエコマーク認定を取得することでした。「生産」から「廃棄」までのライフサイクル全体を通して環境への負荷が少なく、環境保全に役立つと認められた商品につけられる環境ラベルがエコマーク認定です。我々はエコマーク認定を行う環境省の外郭団体であるエコマーク事務局といっしょに厳しい品質基準を策定するところから取り組み始めました。そして「再生インクカートリッジ」の部門で弊社が第一号になったのです。
 このマークを取得することで量販店様等に安心して当社の商品を取り扱っていただけるようになり、インクカートリッジの回収ボックスも全国津々浦々へと設置が進んでいきました。

消費者を巻き込んだ地球環境を守る取り組み

――この事業がスタートした当初は地球温暖化に対する社会の認識も今ほどではありませんでした。使用済みカートリッジを回収するというビジネススタイルに対し、消費者から共感を得る上で大切にされたことは何でしょうか。

宗廣:エコリカの社是は「人と地球に貢献します」です。「人に貢献する」というのは良い品質の商品をお財布にやさしい価格で提供していくことです。その意味で純正品より安いというメリットを訴求しました。
 またエコリカではユーザーに購入していただいた商品1個につき、1円を世界最大の環境保全団体のWWFへ寄付する取り組みを創業以来続けております。このことをユーザーに知っていただくことで「地球に貢献する」ことへの啓蒙にもつながります。
 さらにエコリカのリサイクルインクカートリッジのパッケージはジッパー付きの透明な袋になっています。中の商品が見えることで実際に商品の形状を見て確かめられます。型番だけの確認では不安なユーザーもいらっしゃるので、その点に配慮した仕様です。ジッパーになっているのは、使い終わったカートリッジを、この袋に入れていただくことでパッケージも同時に回収でき、ごみを削減できます。

エコリカ回収ボックス

エコリカ回収ボックス

使用期限を撤廃し、ユーザーサポートを強化

宗廣:さらにリサイクルインクカートリッジの使用期限を撤廃したのです。その理由はユーザーサポートの期限を無制限にするためと、1個でも商品ロスを減らすためです。万が一、トラブルがあってもユーザーは期限を気にすることなく、専用のサポートセンターにお問い合わせいただけます。もちろんユーザーに安心して最後まで使っていただくために、経年劣化に強い高品質な商品を開発することにも余念がありません。さらに、カートリッジには個別に製造ロットと製造ライン番号、製造年月日が刻印されています。その番号をオペレーターに伝えていただければ商品の状況もすぐ把握できるようになっています。またプリンターの故障など不具合に対応できるよう、代替機の貸し出しも行っていますし、その原因がエコリカの商品にあった場合は修理代金の補償もさせていただいています。

リユース製品化の流れ

リユース製品化の流れ


――グローバルなステージでの貢献については、何か展開していることはありますか。

宗廣:リサイクルインクカートリッジの工場は日本国内だけでなく、フィリピンにもあります。実はリサイクルインクカートリッジの製造は非常に機械化が難しく、手作業が必要になります。それは回収した段階でのインクカートリッジには様々な状態のものがあるからです。使い終わったばかりのフレッシュなカートリッジもあれば、2、3年前のカートリッジも混在しています。そのようにカートリッジの中の状態が異なるので、工程が違ってきます。そこでどうしても手作業になってくるわけです。
 フィリピンの工場には若年労働者がとても多くいます。平均年齢は25歳くらいでしょうか。フィリピンは産業や資源も豊富ではありません。ですから海外に出向く若い労働者も増えています。しかし、現地で工場を建設し、稼働させれば雇用を創出できます。若い世代が国内にいれば様々な面で活力が高まるでしょう。そういったことが評価され、フィリピン政府から表彰されました。

――2019年は「第20回グリーン購入大賞」の中小企業部門で大賞を受賞されました。
どのような気持ちでこの賞を受けられましたか。

宗廣:そのときのテーマが「持続可能な調達」であり、SDGsの目標達成に寄与する取り組みを表彰するものだったのです。それ以前には「地球環境大賞」や、エコマーク認定の初の表彰制度となる「エコマークアワード 2010」において銀賞をいただいています。どれも弊社の取り組みが正しく評価されたことに対して大きな喜びがありましたが、「第20回グリーン購入大賞」は我々も力を注いでいるSDGsをテーマにしていたので、より一層感慨深いものがありました。

LED照明や有機EL照明の世界にも進出

――リサイクルインクカートリッジだけではなく、LED照明の分野でも新しい商品を開発されていますが、そこに着手した理由は何でしょうか。

宗廣:社是の通り、人と地球に貢献できるのであれば、どのようなものでも積極的に展開していきたいと考え、長寿命であることで環境にやさしい電球形や蛍光灯形のLED照明を取り扱う事業を立ち上げたのです。実はエコリカのLED電球もエコマーク認定第一号です。さらに当時は蛍光灯形LEDを取り付けるには安定器といった器具まで変える必要がありました。そうなると工事が発生し、さらにごみも出ます。そこで工事なしでも取り付けられる蛍光灯形LEDも開発したのです。現在のエコリカLED照明の主力はこの蛍光灯形LEDで、特に高演色性の商品が好評です。
 もう一つ、LED照明の他に力を入れている商品に有機EL照明があります。一般の人には大型テレビでおなじみかもしれませんが、有機ELは「有機エレクトロルミネッセンス」の略で、電圧をかけると、有機物質自体が光る現象のことをいいます。これを応用したライトはLEDに続く次世代の照明として期待されています。
 また有機EL照明は面全体が光る面発光を実現していて、「薄く」「軽く」「曲がる」という特性を持ち、今まで考えられなかった形状や用途での照明の提案が可能になります。さらに、高いエネルギー利用効率や水銀を使用しないなど、環境性能面でも注目されています。

有機ELフレキシブルペンダントライト BIRD (株式会社エム・エス・シー東京支店ショールーム)

有機ELフレキシブルペンダントライト BIRD (株式会社エム・エス・シー東京支店ショールーム)/有機ELデスクライト SKY pro

新たなチャレンジでより信頼されるブランドへ

――今後、新たな展開を考えているのはどのような分野でしょうか。

宗廣:リチウムイオンの分野に注目しています。現在、様々な分野でリチウムイオン電池は普及していますが、電気自動車や環境負荷の少ない再生可能エネルギーが一般化することで、今後も蓄電池の重要性は増すばかりです。しかし克服すべき課題は安全性です。エコリカとしては、この問題にチャレンジしていくことも使命ではないかと考え、現在研究中です。
 もちろん企業ですので利益を上げるのは当然ですが、可能な限り、利益を社会に還元していきたい。持続可能な世界に対して貢献できることであればどんどん挑戦していこうと考えています。
 エコリカのブランドはテレビCMもオンエアされていますし、そのことで企業イメージの浸透も狙っています。サスティナブルな世界を実現していくために様々な分野に挑むことでより一層、信頼されるブランドになっていければと思っています。


――宗廣社長が地球環境を大切にする視点は、どのように形成されたとお考えでしょうか。

宗廣:私は岐阜県の「郡上八幡」の出身です。そこは日本の名水百選に選定された名水もあるなど水がとてもきれいな地域であり、特産品である郡上本染や郡上紬なども水と深い関わりをもっています。街を歩くといたるところで水のある風景に出会います。人々は水道と共に随所にある用水や湧き水を暮らしに取り入れているのです。そして、そこには「水舟」という水を大切に使う仕組みが根付いています。これは湧き水や山水を、高低差をつけて三段に並べた水槽に引き込むものです。一番上は飲料水、二番目では食べ物を、一番下の水槽では食器を洗います。ご飯つぶなどの食べ物の残りは、下の池に流れて、鯉やフナなどの川魚の餌になり、水は自然に浄化されて川に流れ込む仕組みになっています。
 私はこのように自然の恵みである水を大事にする、そういった風土の中で育ってきましたから、そのまま使い捨てになっていたインクカートリッジに対して、率直に「もったいない!」と思ったのかもしれません。こういった自然と共生する美しい風景を次世代に伝えていくためにもさらに努力を重ねていきたいと考えています。

郡上八幡「水舟」

郡上八幡「水舟」


――本日はありがとうございました。