2020年11月2日(月)、オンラインにて「コロナウイルス後の世界と循環経済」をテーマに、第5回「エコ・ファースト シンポジウム」を開催し、約350名が視聴した。
環境保全のトップランナーとして、より一層発信力を
冒頭、今井雅則 エコ・ファースト推進協議会議長(戸田建設株式会社 社長)が開会の辞としてエコ・ファースト企業に認定された各企業が環境保全に関する業界のトップランナーであることを再確認。環境大臣と交わした約束を果たすために今まで以上に結束していくことを要望した。そしてより一層発信力を強化していくことが課題と強調した。
次に環境省大臣官房審議官 白石隆夫氏は「最近の気候変動を巡る状況等について」と題して講演。新しく発足した菅内閣においてデジタル化とグリーン社会の実現が大きな政策目標となっているが、世界各国においてもEUが経済の起爆剤となることを狙い「欧州グリーンディール」を発表。アメリカにおいてもバイデン次期大統領がカーボンニュートラルを公約化していることを紹介した。さらにフランスやアメリカ、中国などが補助金を出すなどEV(電気自動車)普及促進策を加速していく現状に触れ、日本ではEVへの支援度は各国より低いことから、今後どのように取り組んでいくかが議論となると話した。今後の論点として、温暖化に向けて「2050年までの脱炭素化社会の実現」を目指していく上で実効性のあるロードマップの改訂が求められていること、また2030年の削減目標の取り扱いについても我が国は2020年3月に従来通り、2030年度26%削減をUNFCCC(気候変動枠組条約)に提出しているが、各国の目標をすべて達成してもパリ協定の2℃目標には不十分であり、目標の引き上げが議論のアジェンダに上ると語った。
今後はコロナ禍からの経済復興と脱炭素化社会への移行が大きな課題となっており、短期的・長期的な視点に立ち、環境と成長の好循環を加速させる必要性を述べた。さらにコロナ禍を注視しながらのカーボンプライシングの取り扱いにも言及した。
また環境省においては脱炭素・循環型・地域分散型という3つの移行を強く訴えており、それを実現していくための経済社会の再設計が政策の中心的課題であるとなる。
そういった中で各地に目を向け、横浜市などで再生可能エネルギーを導入することで地域の諸課題の解決を図っている例を挙げた。同時に2050年までにCO2実質ゼロを表明するゼロカーボンシティが拡大。一方、脱炭素経営という観点ではTCFDに賛同する企業の数が世界第1位、またSBTの認定企業やRE100参加企業数が世界第2位にあることを伝えた。さらにこの9月に行った脱炭素社会実現に向けた環境省・経団連の連携に関する合意を紹介。今後もこういった連携を強めていきたいと述べた。
■基調講演 「コロナウイルス後の世界と循環経済」
基調講演では、中部大学経営情報学部長 教授 細田衛士氏が登壇。
「コロナウイルス後の世界と循環経済」と題して以下のような講演を行った。
対立と格差か、新たなる経済社会の構築か------2つの選択
コロナウイルス禍は、これまで楽天的な経済発展・成長の期待を打ち砕いた。今、新しい発想で経済の発展・成長の道を切り開いていくことが求められている。それを可能にするのが「循環経済」であり、ここではその新たなる展開・方向性を展望していく。
まずコロナ禍後をどう見るかについて考察すれば、対立の構図が容易に描ける。そこには富と所得、および医療・福祉の格差拡大などが考えられ、100年前のスペイン風邪の流行期では、第1次及び第2次世界大戦が勃発している。しかし、それとは別にこういった例もある。それは1348年のヨーロッパにおけるペスト大流行。その直後にボッカチオやダ・ヴィンチなど錚々たる文化人が綺羅星のように現れ、ルネサンスが起こった。
ペスト禍ではルネサンス。スペイン風邪では2つの世界大戦。これと同じように我々は対立と格差か、ヒューマニズムに基づいた新たなる経済社会の構築か、その選択を迫られている。後者の道を歩む上で重視すべきはSDGsであり、それは「誰一人取り残さない」という思想が経済、環境・資源、社会のトリプルウィンを生み出し、連携と協調による経済社会の発展を進めていく上で鍵となる。
今後、必要なのは新たな規範となるソフトロー
このトリプルウィンを実現するうえではSDGsの12番目の「つくる責任 つかう責任」が大きな役割を果たす。特に「つくる責任」は重要であり、トリプルウィンを目指さない企業は淘汰される可能性が高い。逆にこのトリプルウィンを目指すことにビジネスチャンスがあると捉えるべきである。
その意味で循環経済はSDGsの必要条件となり、将来の資本主義経済の道筋を大きく決定づけることになる。ではどうすればそれは可能になるだろうか。少なくとも市場メカニズムだけでは循環経済を作り出すことは不可能である。何らかの制度的制約=制度的インフラストラクチャーがなければモノのフローは循環型にならない。そして、それは強すぎても弱すぎてもいけない。
今日までの成果に目を向ければ長期的に一般廃棄物や産業廃棄物ともにリサイクル(再資源化)率は上昇傾向にあったが、ここ数年は頭打ちの状態にある。
ではコロナ禍ではどうなっただろうか。事業系廃棄物や一部の産業廃棄物の排出量は激減したものの、家庭系一般廃棄物は「巣ごもり消費」で増加した。
そういった背景において循環型経済を構築していくためには法的拘束力を持つハードローだけではなく、ソフトローという社会的規範が重要となる。このソフトローによってハードローではできない人と人との繋がり(パートナーシップ)ができる。この繋がりによって新たな付加価値が生み出される可能性があり、ポストコロナ禍は、そのような新しい経済=グリーンリカバリーを生み出すチャンスと受け止めていきたい。
今、経済は新しく生まれ変わろうとしている。ワンウェイの使い捨て経済から循環型経済(CE)へ。それは経済と環境・資源と社会のトリプルウィンを目指すこととなり、日本の商法に根付く三方良しやCSV(Creating Shared Value)の世界と重なる。
その意味でエコ・ファーストは環境トップランナーの集まりであり、メンバー企業は環境大臣との約束を果たすために行動している。エコ・ファーストの成功は日本流のソフトローの成功を意味している。
■エコ・ファースト企業4社が最新の取り組みを発表
シンポジウムではエコ・ファースト企業4社のプレゼンテーションが行われた。
ここではその概要を掲載していく。
「SDGsの推進に向けて」タケエイグループの取り組み
株式会社タケエイ
株式会社タケエイは、同社代表取締役社長 阿部光男氏が企業発表を行った。まずは同社が建設廃材を引き受けるビジネスを行う個人事業として1977年に創業、東証マザーズ市場へ2007年に上場を果たすなど産業廃棄物処理業として発展を遂げてきたことを紹介。2020年5月には中期経営計画「2023 to the FUTURE~ 国家の環境保全に資する総合環境企業へ~」を公表、廃タイルカーペットのリサイクルや木質バイオマス発電事業者「市原グリーン電力」を連結子会社化し、再生可能エネルギー事業体制をさらに強化してきたと話した。さらに建設廃棄物由来の廃プラスチックで発電設備の安定稼働を支えていることなどを伝えながら全国6か所に設けた再生可能エネルギーの事業拠点に触れた。またこの5月には資源循環型社会へ貢献する経営理念を具体化するためのタケエイSDGs推進財団を創設。コロナ禍の中、奮闘する医療従事者に対し、サージカルマスクを福島県の相馬市、石川県の輪島市や志賀町に贈ったことを話した。また秋田県大仙市にある大仙バイオマスエナジーのそばにある老朽化したバス停を改築、バイオ発電の余熱を送ることで冬も温かくバスを待てる空間を贈呈したことを伝えた。
西松建設の環境への取り組み ~下水汚泥焼却灰からのリン回収技術について〜
西松建設株式会社
西松建設株式会社からは同社技術研究所環境技術グループ長 山崎将義氏がプレゼンテーション。トンネルの土木から創業し、現在は建設業、開発事業、不動産事業等を営む同社の概要を紹介したあとに、2015年には中期経営計画を策定、これを機に環境への取り組みを加速し、2019年にはすべての中期目標を2年前倒しで達成してきたと述べた。
またエコ・ファースト企業として「カーボンフリーの追求」「生物多様性保全活動の実践」「循環型社会の形成促進」「環境教育の実施」の4つを環境大臣に約束していると話し、今回のプレゼンテーションテーマである下水汚泥焼却灰からのリン回収技術に言及。リンは人間にとって必須の元素であり、生命活動に欠かせない資源であるにも関わらず、日本では天然のリン資源がなく輸入に依存し、国内で確保することが急務である現状を説明した。
そういった中で下水汚泥焼却灰から肥料用のリンを回収する技術を新潟大学との共同研究によって開発に成功したと話した。この技術では高効率化ともにカドミウムやヒ素といった重金属等の分離除去が可能という2つの特徴を持つ。また残渣も建設資材原料等に資源化できることを強調した。今後は資源循環に関わる残渣の有効利用方法について検討を進めながら、このリン回収を通じて循環型社会の形成促進や廃棄物の削減に取り組んでいきたいと結んだ。
ブリヂストンの環境中長期目標 ~サーキュラーエコノミーへの取り組み~
株式会社ブリヂストン
株式会社ブリヂストンはサステナビリティ推進部 部長 稲継明宏氏が自社の取り組みを発表。サステナビリティの実現に向けた取り組みを実現していくために掲げた「2050年にサステナブルなソリューションカンパニーとして社会価値・顧客価値を持続的に提供している会社へ」のビジョンに触れ、中長期事業戦略構想をまず説明した。そして、そこにある「マイルストン2030」にサーキュラーエコノミーへの貢献促進があると述べ、使用する原材料の比率において再生資源または再生資源に由来する資源が40%まで占めていくことを目標にしていると話した。そしてサーキュラーエコノミーの実現に向けたアプローチに言及。 製品開発から調達、製造、販売、使用後回収というリニアと呼ばれていた一直線のラインを様々な箇所で丸く、つまりサーキュラーにしていくという概念をビジネスアプローチとして考えていると語った。そしてその課題として長寿命化等の「資源生産性」、再生資源・再生可能資源を活用していく「マテリアルサーキュラリティ」、リサイクル、アップサイクル、リペアなどによる「プロダクトサーキュラリティ」の3つを向上させていく重要性を挙げた。最後に取り組み事例として、一次寿命が終了したタイヤのトレッドゴムを削り、新しいゴムを貼り付けることで省資源に貢献するリトレッドタイヤを紹介した。
プラスチックの資源循環の推進に向けて
ライオン株式会社
ライオン株式会社はCSV推進部 部長 小和田みどり氏がプレゼンテーションを担当。健康で快適な生活習慣づくりに向けた活動を実施、特にコロナ禍ではホームページでくらしの衛生情報の発信を行ってきたことなどを冒頭に紹介した。次に現在掲げる4つのエコチャレンジに「2050年までにプラスチックの高度な資源循環を目指す」があることに触れた。そして、容器や包装を少なくすることによる容器包装材料使用量の削減や詰め替えを増やす本体容器の再使用、再生樹脂等の再生材料の利用やバイオマスプラスチックの採用による再生可能原料を使用するといった「3R+Renewable」の取り組みを説明した。
さらに同社が様々なニーズに応えることで「つめかえ品」の普及に貢献したことに言及。市場での切磋琢磨を通して商品の「つめかえ文化」を実現したことを強調した。また今、推進する「ハブラシ交換やハブラシリサイクルプログラム」について説明。使用済みハブラシを回収して植木鉢などのプラスチック製品に再生するハブラシ・リサイクルが全国に展開していると話した。そして最後に健康に暮らすことがそのまま「エコ」に繋がるこれらの活動が、1社ではなく協同することによって課題解決に繋がることを力説した。
パネルディスカッション
「循環経済を推進していくエコ・ファースト企業の連携」
世界が一気にサステナビリティへ
今、世界がめまぐるしく動いている。中国では習近平国家主席が2060年までにCO2排出実質ゼロを表明。年頭にはイギリスがEUからの離脱4日後にエンジン車の販売禁止を2040年から2035年に前倒しすることを発表した。さらにアメリカのカリフォルニア州や中国もそれに同調するかのように2035年禁止を宣言。そして菅首相は所信表明演説で「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という新たな目標を掲げた。
こういった世界の動きに対し、コーディネーターの森摂氏(株式会社オルタナ 代表取締役社長)2020年はサステナビリティが実際に動き出す元年になるのではないかと問題提起しながら、パネルディスカッションを始めた。
多彩な取り組みを行うエコ・ファースト企業
同パネルディスカッションでは三洋商事株式会社地球環境・未来創造部長 石田公希氏、 株式会社滋賀銀行総合企画部 サステナブル戦略室長 嶋﨑良伸氏、積水ハウス株式会社ESG経営推進本部 環境推進部長 近田智也氏、ビックカメラグループ株式会社フューチャー・エコロジー 代表取締役社長 山崎昌明氏が登場した。
コンピュータやその機器類のリサイクルを行う三洋商事の石田氏は、5月に新設された地球環境・未来創造部に所属、地球温暖化防止、気候変動対策に力を入れた活動を続け、全拠点を再生可能エネルギーに変更、無料のエコスクールの実施や環境に関する社内講演に加え、ニュースリリースを毎日発信しているというその活動を伝えた。
滋賀銀行の嶋﨑氏は同行が早くから環境経営に取り組み、現在はそれがSDGs経営へと発展。またESG金融の推進に力を入れ、9月には地方銀行として初めて「滋賀銀サステナビリティ・リンク・ローン」の取り扱いを開始、それがSDGsの目標の達成度合いに応じて優遇する伴走型の取り組みであることを紹介した。
積水ハウス近田氏は、同社が家づくりを通して「幸せな暮らしを提供している」ことを強調。そのためには良質な住居を提供するのみに留まらず、気候変動を止めるという使命感を持って地球温暖化防止に取り組んでいると話した。またZEHの推進に力を入れ、現状では提供する住宅の9割近くを占めていることを紹介した。その中ではデザイン性に配慮した太陽光パネルや断熱性能の高い素材を標準採用することで、窓の大きさを確保するなど、環境価値と共にお客様価値を高め、社会貢献できる家づくりを行っていると述べた。
フューチャー・エコロジーの山崎氏は同社が家電やOA機器のリサイクルを行う企業であることを紹介。また母体であるビックカメラが業界初の環境報告書を公表し、エコ・ファースト制度の第1号の認定企業であること、さらにグループ全体で廃棄物削減に取り組んでいることを伝えた。
社内の価値観共有やモチベーションアップも重要課題
パネルディスカッションでは、コーディネーターの森氏が「各社でなぜ環境への取り組みが行われるようになったか」を聞いた。滋賀銀行の嶋﨑氏は、1990年代の後半から環境経営の推進を当時の頭取によって推進。三方良しで有名な近江商人の発祥の地であり、環境への意識が高い素地があったからではないかと答えた。三洋商事の石田氏は経営理念の“地球に「ありがとう」を伝える企業”であり、環境への意識が経営者を中心に高かったと説明。積水ハウスの近田氏は以前から環境への取り組みは行われており、1999年に業界に先駆けて発表した「環境未来計画」によって企業全体の取り組みとなったと話した。フューチャー・エコロジーの山崎氏はビックカメラの初代社長が環境に対して強い想いを持ち、同社も2001年に創業。いち早く、リサイクルやリユースに着手して来たと述べた。
エコ・ファースト企業として各社が「約束」を実現していくために、それぞれの立場でその取り組みを進めている中、森氏は社内への浸透方法を質問。企業規模が大きければ大きいほど難しくなるその課題に対し、どう社員と価値観を共有し、モチベーションアップに繋げているのだろうか。
積水ハウスの近田氏は現社長がブログで自身の考え方を社員に発信、そのことで環境への意識を社員が分かち合えていると話した。滋賀銀行の嶋﨑氏は同行の頭取がコロナ禍においてサステナビリティとデジタルという2つのキーワードを掲げ、持続可能な社会をつくっていくということが銀行の本分であり、それを実現していく手段がデジタルであると行員に話していると述べた。
フューチャー・エコロジーの山崎氏は産業廃棄物の担い手である人材を大切にすることがそのまま環境への取り組みのモチベーションアップにつながると話した。三洋商事の石田氏は同じく「汚い」「きつい」という印象の職場環境の改善の重要性を訴えた。
最後に基調講演を行った細田衛士氏がパネルディスカッションを総括。先進企業の中でそれぞれ違った形でもガバナンス力が高い企業の今後の課題として同業種の水平協力、そしてサプライチェーンという垂直協力の重要性を強調。縦と横で優れた企業の連携ができることで循環経済が成立していくことを力説した。