〈シリーズ〉SDGs 企業・自治体の取り組み

 今回は、令和2年(2020)1月に発表された「市版SDGs調査2020」(株式会社ブランド総合研究所)においてSDGs指数全国1位、幸福度1位を獲得した川越市を取材しました。川越市総合政策部政策企画課の「川越愛」に溢れる明石陽子主幹と横内邦光主事のお二人にお話をお聞きしました。
 川越市は大正11年(1922)に埼玉県で初めての市として誕生しました。そして昭和30年(1955)に周辺の9か村を合併し現在の市域となり、令和4年(2022)12月に市制100周年を迎えます。地理的には都心から30㎞圏内の埼玉県中央部よりやや南部に位置し、人口は35万人を超える中核市です。産業構造もバランスが良く、JRと私鉄が乗り入れる川越駅、私鉄の本川越駅・川越市駅を中心に栄える商業、首都圏の食料供給地としての役割を担う農業が盛んです。そして市内北部・南西部に展開する工業団地等により県内上位の出荷額を誇る工業も発展しています。

川越市総合政策部政策企画課 明石陽子主幹(左) 横内邦光主事(右)川越市総合政策部政策企画課 明石陽子主幹(左) 横内邦光主事(右)

川越市×SDGs

歴史ある町「小江戸(こえど)」

 川越市は、「小江戸」の別名でも知られ、江戸時代には親藩・譜代の城下町として栄え、城跡・神社・寺院・旧跡・歴史的建造物が多く、歴史情緒溢れる城下町の面影を色濃く残しています。「小江戸」の代名詞と言える「蔵造り」の町並みの中に、川越のシンボルになっている「時の鐘」があります。「時の鐘」は、寛永4年(1627)から11年(1634)の間に、川越城主酒井忠勝によって建てられたものが最初と言われていますが、明治26年(1893)に起きた「川越大火」で焼失し、現在のものはその翌年に再建されたものです。3層構造の塔で高さ約16メートル、現在でも1日に4回(午前6時・正午・午後3時・午後6時)、 鐘の音を響かせています。なお平成8年(1996)に、時の鐘は環境庁主催の「残したい“日本の音風景100選”」に選ばれています。
 他の観光スポットとしては、菓子屋横丁や川越大師喜多院、「縁結び」や「鯛みくじ」、「絵馬トンネル」などで若い方の参拝者の多い川越氷川神社などが有名です。

川越市指定文化財「時の鐘」川越市指定文化財「時の鐘」 川越市100周年記念ロゴにも描かれています。
<出所:川越市ホームページ>

SDGsとの親和性と「第四次川越総合計画(後期基本計画)」への反映

 現代のまちづくりは進めるうえでの諸課題も多く、資金や人材も必要です。多くの政策やプロジェクトは、市役所だけの力では出来ませんし、一朝一夕で出来るものでもありません。このような考え方のもと、川越市は国連でのSDGs採択前から「川越愛」溢れる市民の方々と協働してまちづくりに取り組んできました。その結果として、「SDGs指数全国1位」、「幸福度1位」に選ばれたものと考えています。
 またSDGs採択後は、社会の変化を取り入れ、令和元年(2019)7月に、神奈川県が中心となって提唱した「SDGs日本モデル宣言」に賛同しています。本宣言は、「地方自治体が国や企業、団体、学校・研究機関、住民などと連携して、地方からSDGsを推進し、地域の課題解決と地方創生を目指していくという考え・決意を示す」ものです。現在、全国432の自治体が賛同しています。(2022年2月2日現在)
 そしてSDGsが目指す「環境・社会・経済」の3側面がバランス良く発展した社会は、川越市が「川越市の目指す将来都市像と、
目標を同じくしている」という考え方のもと、令和3年(2021)3月に策定した「第四次川越総合計画(後期基本計画)」の中で「SDGsの推進について」を明記しており、総合計画における各施策の推進と多様な主体との連携により、SDGs達成に向けて取組んでいくこととしています。

グリーンツーリズムの推進(蔵inガルテン川越)

 川越市は従来、まちづくりにおいて市民との協働に助けられてきました。そのような取組みが随所にみられるのが、農業と観光をつなぐ「蔵inガルテン川越グリーンツーリズム」です。「蔵inガルテン川越グリーンツーリズム推進協議会」は、市内の農業者、宿泊業者、飲食業者など、さまざまなステークホルダーで構成されており、川越市は事務局として、協議会をサポートしています。
 クラインガルテン(Kleingarten)とは、ドイツ語で「小さな庭」の意味です。日本語では、主に「市民農園」もしくは「滞在型市民農園」と言われています。ドイツを始めとしたヨーロッパ諸国で、都市生活のために庭をもつことができない市民のために作られた農園(農地の賃借制度)です。
 川越は、都心から30㎞圏内にもかかわらず豊かな自然に恵まれ、その自然の中で農業もさかんです。また農家の方による、さまざまな農業体験が行われていますが、川越市の施設「川越市農業ふれあいセンター」でも、年間を通じて農業体験活動を行っており、近隣の農家さんがインストラクターを担っています。
 一方、川越には、小江戸の代名詞とも言える「蔵造り」の町並みがあり、多くの観光客が訪れます。そして川越の大切な資源とも言える「農業」と「観光」を掛け合わせて生まれたプロジェクトが、グリーンツーリズムを推進する「蔵(クラ)inガルテン川越」です。川越では大きく広がる田んぼや畑など、昔ながらの農村景観を今も見ることができます。川越のグリーンツーリズムの魅力は、都内などから気軽に訪れ、農業や自然にふれるさまざまな体験を楽しめることです。こうした農業体験と蔵造りの町並みの散策など、人気の川越観光を合わせて楽しむことができます。
 最近はSDGsへの関心の高まりにともない、スローライフも注目を集めています。川越は都心からも近く、まさに人生をゆったりと楽しもうという方に最適な場所と言えます。イノベーションは、既存のものと既存のものを掛け合わせても生まれることもあります。クラインガルテンの言葉の持つ意味や響きが、歴史ある「蔵」に繋がることで、新たな川越の魅力を生み出すことになると期待しています。

SDGs地域ネットワークへの参加―「清流の国ぎふ」出所:「蔵inガルテン川越グリーンツーリズム推進協議会」ホームページ
出所:埼玉大学主催「自治体のためのSDGsプログラム」発表資料(令和3年11月)

まちづくりにSDGsを共通言語に民間の活動を応援する

 SDGsの推進のためには、行政だけではなく、市民や事業者、大学・高校などの学校関係者とも協力して取組を進めていく必要があります。川越市は、市内事業者の活動をホームページで紹介するなどの情報発信に加え、市民からのまちづくりやSDGsに関する提案活動にできる限り協力する姿勢で取り組んでいます。令和2年度(2020)には、東京大学生産技術研究所主催の「大漁旗プロジェクト」に埼玉県立川越工業高校からの協力依頼を受け、授業講師や応募手続きの支援を実施しました。「大漁旗プロジェクト」は、SDGs(持続可能な開発目標)と最先端の科学・技術の視点で「まちづくり」を捉える機運を全国で高めることを目的に実施されました。日本各地が誇る魅力とビジョンを描いた大漁旗を自治体ごとに制作し、東京大学安田講堂にすべての大漁旗を結集し、たなびかせるプロジェクトです。大漁旗のコンセプトアイデア出しサポートのため、全国8か所でワークショップを開催するなど、2年近くにわたり、プロジェクトが展開されました。
 デザインした川越工業高校デザイン科の生徒さんによると、川越市の大漁旗のメインモチーフは、「川越氷川神社」の鯛みくじです。その他、沢山の川越名物と、経済の発展を表現しています。デザインのポイントは誰もが目を引くような可愛らしい色使いでステンドグラス調にしたことです。若い世代にも古き良き川越の街を知ってもらいたいという思いと、この綺麗な街がこれからも住みやすい街であり続けて欲しいという想いを込めて制作しました、とのこと。なお、プロジェクトのフィナーレイベントである「大漁旗プロジェクト フィナーレ at安田講堂」では、「アピール賞」を受賞しました。
 そして、川越市では、令和3年(2021)に民間主導の「川越から地球を元気にSDGsアクションフェスタ」が開催され、協力要請のもとブース出店しています。また、フェスタのイベントとして、前述の大漁旗の市への贈呈式を実施するなど市民協働の情報発信に努めています。

SDGsイベントの開催―高校生・専門学校生・大学生向け啓発イベント

SDGs×企業版ふるさと納税の推進

 川越市は、商業や農業に加え、ものづくりも盛んです。歴史的には江戸時代から第二次世界大戦前まで「川越織物」として繊維産業が盛んでした。江戸時代は、川越街道や新河岸川の舟運により、江戸と深く結ばれ、平絹や唐桟(とうざん)が有名でした。このような歴史を表している建物の一つに「旧川越織物市場」があります。
 旧川越織物市場は、明治後期に建設され、産業遺構として当時の姿を残すもので全国的にも希少性の高い建物と言えます。また、同施設内に残る旧栄養食配給所は、中小織物工場主たちが従業員のために設立したもので、同じく貴重な建物となっています。(平成17年3月川越市の有形文化財に指定)現在、文化財としての復原を行うとともに、建物を生かして、若手のクリエイター等が創業支援を受けながら一定期間活動を行う文化創造インキュベーション施設として活用するため、旧川越織物市場の整備等を行っています。また、ものづくりを支援するため、川越商工会議所と共同で「川越ものづくりブランドKOEDO E-PRO」認定事業を展開しています。川越発の優れた工業製品・技術を認定し、市内外に広く情報発信をすることで、認定製品・技術の販路開拓・拡大を支援し、市内の工業振興を図っています。
 そしてこのような活動やインキュベーション施設から、社会課題や地域課題の解決に繋がるイノベーションが川越から生まれてくることを期待しています。グローバルに活動する世界的な企業の中には、中小企業時代のイノベーションが核になり、短期間で成長した事例もあります。ただこのような取組みには資金やノウハウも必要です。そこで川越市は「企業版ふるさと納税」の活用を通じて、全国の企業の皆様へ、川越発のイノベーションへの協力や支援をお願いしています。ぜひ一度、川越市の企業版ふるさと納税のサイトに訪れて頂きたいと思います。
 川越市では、SDGsの達成には、自治体がそれぞれの地域の実情に応じた取組を、地域のステークホルダーや時には他の自治体と協力しながら、地域の未来のために取り組むことが必要とのこと。昨今は、自治体間競争が激しくなっていると言われることもありますが、SDGsをきっかけとして、民間の知見や自治体間での連携やノウハウ、目標の共有などができると、よりよい未来につながるのではと考えています。

埼玉大学主催「自治体のためのSDGsプログラム」発表資料(令和3年11月)出所:埼玉大学主催「自治体のためのSDGsプログラム」発表資料(令和3年11月)