〈シリーズ〉SDGs 企業・自治体の取り組み

 「NGP」や「廃車王」などのブランド名で知られる国内有数の自動車リサイクル事業者であるNGP日本自動車リサイクル事業協同組合(理事長 佐藤幸雄氏;以下NGP)を取材した。
NGPは2019年、「人と車と地球にやさしく自動車リサイクル事業を通して、子どもたちと地球の未来を考えます。」と題して、SDGs宣言を実施している。今回は、専務理事の鈴木成幸氏にSDGs宣言をした背景や経緯、現在取り組んでいる事業についてインタビューした。コロナ禍で厳しい経済情勢のなかでも、取り組むべき事業や課題についての思いを熱く語って頂いた。

豊島(てしま)事件を風化させない

 香川県小豆郡土庄町(とのしょうまち)に、現在は「アートの島」としても知られる「豊島」があります。1990年、瀬戸内海国立公園の一部にも指定されている「豊かな自然に恵まれた島」である豊島で国内最大級ともいえる不法投棄事件が発覚しました。その不法投棄物とは、「使用済み自動車の破砕くず(シュレッダーダスト)」や汚泥、廃油などであり、過去最悪とも言える環境汚染を引き起こしました。

不法投棄は、1970年代後半から始まり、不適切な焼却による児童の健康被害も引き起こし、土壌からは、高濃度のダイオキシンや鉛・水銀・カドミウムなどが検出されました。
当初は行政の動きが弱かったこともあり、地域住民が立ち上がり、日本弁護士連合会会長であった中坊公平氏らの支援も得て社会問題化しました。
この事件を契機として、2002年に「自動車リサイクル法」が制定(2005年施行)されています。豊島では、2003年から廃棄物の撤去が始まり、廃棄物の量は93万トン以上、処理総額は700億円を超えています。2017年に廃棄物の撤去が終了したが、残念なことに2018年に新たな廃棄物610トンが発見されており、現在は汚染された地下水の浄化作業が続けられています。

豊島事件は経済成長のもと、大量生産、大量消費、大量廃棄という効率を求められる社会の中、都会で発生した大量のごみが地方の小さな島に押しつけられるという社会問題とも言えます。
環境破壊は、次世代にとって「負の遺産」であり、本事件も「環境破壊の再生には長い年月がかかり、その代償は後世が払うということ」を教示しています。
自動車リサイクル事業を全国で展開するNGPは、この事件を忘れることなく、使用済み自動車の適正処理を高度化し、その使用済み自動車から有効に活用する「リサイクル部品」を社会に提供することで「循環型社会」への貢献に努めています。

  • NGP日本自動車リサイクル事業協同組合
    専務理事
    鈴木 成幸 氏

NGP SDGs MODEL への挑戦

 私たちの地球は産業革命以降、爆発的に増加する人口やグローバル化による経済成長より、資源の枯渇や増加する廃棄物、温暖化問題など深刻な状況にあると言われています。
限りある資源の有効利用を進め、ごみの排出量を抑制することで環境負荷を低減し、持続可能な社会の実現を目指す必要があります。
一方、我が国は、モータリゼーションの進展に伴い自動車の保有台数は、約7800万台になっており、現在、年間で約350万台程度が廃車されています。自動車は、鉄やアルミ、レアメタルなどの有用金属から製造されているため、総重量の約80%がリサイクルされています。残り20%が破砕くずであるシュレッダーダストになります。また自動車のエアコンに冷媒として使用されているフロン類は適正に処理されないとオゾン層破壊や地球温暖化の問題を引き起こす要因になってしまいます。さらにエアバッグは解体するには専門的技術を要します。全ての自動車の保有者・使用者に自動車リサイクル法「使用済み自動車の再資源化等に関する法律」の順守が求められていることは言うまでもありません。
このような環境認識に立ち、NGPは、自動車リサイクル法「使用済み自動車の再資源化等に関する法律」を順守し、使用済み自動車から始まる「循環型社会の構築」を目指し、2019年に「NGP SDGs MODEL」を策定しました。
本業を通した二つの取組みを柱として、SDGsに貢献する持続可能なビジネスモデルを構築していきます。

 具体的な取組みの一つは、「廃車王」のブランドで全国展開する廃車の適正処理と再資源化です。NGPの1台あたりのリサイクル率は約99%であり、使用済自動車の再資源化のために、最新設備と培った技術で有用な金属類を回収し、環境のための資源循環事業を展開しています。 使用済み自動車の20~30%はリサイクル部品として再利用されます。リサイクル部品は、大きくは「リユース部品」と「リビルト部品(再生部品)」に分けられます。
リユース部品は使用済自動車から再利用可能な部品を取り外し、洗浄、品質チェックを行い、商品化したものです。リユース部品は、「グリーン購入法」の対象品目です。NGPリサイクル部品は統一した厳しい品質基準のもと、合格したもののみを発送しています。
リビルト部品は使用済み部品を分解し、磨耗・劣化した部分を新品部品と交換して、再度組み立てて品質チェックを行った部品のことです。
NGPは、これらのリサイクル部品を外装・機能部品として325アイテム(バンパーやドア、フロントグリルやテールランプ、エンジンなど)を常時150万点在庫しています。

NGPは、リサイクル部品の利用促進はCO2削減への効果があるとして2013年から、その効果について富山県立大学・明治大学と一緒に産学で共同研究をして来ました。
直近の研究結果によれば、NGPのリサイクル部品を使用することによって、削減される1年間のCO2は31,338t(t-CO2)です。ブナの木、280万本分と同じCO2削減効果が見込まれます。(2018年9月~2019年8月実績)
政府も2020年10月に「2050年に向け、温暖化ガスを実質ゼロにする」と発表しました。NGPは、政府方針も踏まえ、これからもリサイクル部品の推進により、CO2の削減に貢献していきます。

二つ目の取組みは、香川県の豊島での環境保全・再生活動です。
具体的には豊島事件をきっかけに設立された「NPO法人瀬戸内オリーブ基金(以下、オリーブ基金)」の活動である「豊島ゆたかなふるさとプロジェクト」に賛同し取組みを推進しています。オリーブ基金は、中坊公平氏や建築家の安藤忠雄氏らが中心になって設立されました。全国から寄せられた基金により、豊島にはオリーブの木が植えられ、2014年から2019年の間に約19トンの実が収穫されるまで成長しています。
今ではこのオリーブを使った食用や美容用のオリーブオイル、オリーブ石鹸も作られ、その売上は瀬戸内エリアの自然を守る活動に使われています。

NGPは「オリーブ基金」への具体的な支援活動として、海洋漂着ゴミの回収と国立公園にふさわしい姿への回復を目指して雑草などの除去作業に参加しています。
今年の海洋漂着ゴミ回収では、コロナ禍の影響なのかもしれませんがマスクも散見されました。また適正な廃車手続きである「廃車王」や「リサイクル部品」のCO2削減量に応じて「オリーブ基金」への寄付も実施しています。オリーブの木は平和の象徴とも言われます。NGPは「オリーブ基金」への支援は環境に加え、SDGsのゴール16の平和にも繋がる活動であるとも考えています。

<2030年NGPのSDGs目標>
●使用済み自動車約1,000万台から2,000万点以上の自動車リユース部品と適正なリサイクル処理を実施し、50万トン以上のCO₂削減に貢献します。
●香川県豊島の産業廃棄物(自動車破砕くず等)不法投棄により失われた自然を取り戻す環境再生活動を行い、環境保全と3Rの大切さを後世に伝える活動を行います。

  • (左)
    株式会社NGP
    取締役副社長 川畑 博文 氏

    (右)
    NGP日本自動車リサイクル事業協同組合
    専務理事 鈴木 成幸 氏

災害発生時での被災車両の引き上げ

 地球温暖化の影響もあり、我が国での自然災害が増えてきています。豪雨による土砂崩れや河川の氾濫によって、自動車が多く流されています。土砂や濁流にのまれた自動車の多くは、自走することが困難であり、災害復旧活動の妨げになります。NGPは、SDGsのゴール11への貢献としてグループ企業の株式会社NGPと連携して自然災害発生時に被災車両の引き上げにも取り組んでいます。
2019年は関東・甲信越・東北地方などでの被災関連を中心に約5,000台を引き上げています。九州地方を中心に大きな被害をもたらした令和2年7月豪雨においては、2020年7月4日に対策本部を設置し、7月9日に熊本県人吉市に人吉ヤードを、15日には福岡県筑後市に長浜ヤードを設置し、被災車両の引き取りを開始するなどのスピード感のある被災地支援を行っています。
今後は事前に自治体と包括連携協定を結ぶなどの取組みも検討したいと考えております。なお過去の実績としては2011年の東日本大震災では1,825台、2015年の関東・東北豪雨では1,160台を引き上げました。2018年の西日本豪雨では2,497台、台風21号被害では1,166台を引き上げています。

自動車リサイクル事業を通しての地球環境保全やSDGsへの貢献

 NGPは以前より、自動車の素材変化に対応すべく徹底した素材リサイクル、xEV(※1)など次世代自動車に対応すべく各種研修等、世界の動きの一歩先を行くグループとして取組んで来ました。ご承知のように「IPCC(※2)」においても温室効果ガスの累積排出量が気候変動の原因となること、及び気候変動による深刻な被害を回避する為には、今世紀末までの気温上昇を産業革命前と比べて2℃未満に抑えなければならず、そのためには、今世紀中の脱炭素化が必要であると結論付けられています。
これからもNGPは、「Think Globally, Act Locally」の考えのもと、自分ごととして、より一層の努力と前進を図り、地球温暖化防止に貢献していけるよう、使用済み自動車の適法・適正な解体作業を推進し、リサイクル部品の利用促進により、未来創造や持続可能な社会の実現に向けて取組んでまいります。

※1「電気自動車/ハイブリッド自動車/プラグイン・ハイブリッド自動車/燃料電池自動車」の総称
※2 気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)