〈シリーズ〉SDGs 企業・自治体の取り組み

株式会社JTBのCSR・SDGs活動
社会貢献がもっと身近になる文化の醸成と「企業版ふるさと納税」の活用

 日本の旅行業のリーディングカンパニー「株式会社JTB」が取り組むCSR・SDGs活動について、広報室担当部長の中村弘子氏にインタビューし、同社に根付く社会貢献の文化が生まれた背景について語っていただいた。また、同社が新たに立ち上げた企業版ふるさと納税ポータルサイト「ふるさとコネクト」や株式会社カルティブが運営する地域課題解決プラットフォーム「river」についても取材をし、自治体と企業が共に地域課題を解決していく企業ふるさと納税の可能性を探った。

ツーリズム産業とSDGsを両輪に、地域に貢献

 「感動のそばに、いつも。」のブランドスローガンで知られる、日本を代表する旅行会社「株式会社JTB」は、CSRにおいても国内外で積極的な活動を展開している。観光地などで地域住民とともに清掃・植樹等を行う「JTB地球いきいきプロジェクト」や、旅先での魅力的な交流体験を表彰する「JTB交流創造賞」など、地域に寄り添い、活性化に寄与する活動が特徴的だ。
CSR活動の運営やJTBブランドの向上に取り組む広報室担当部長の中村弘子氏は、同社のCSRの背景について、観光地との関わりの深さを挙げる。
「私たち旅行会社にとって一番大切なのはやはり観光地です。観光地を美しく保ち、その魅力を広く伝えていくことが、当社のCSR活動の原点になっています」
同社がCSR活動に積極的に取り組み始めたのは、創立70周年を迎えた1982年のこと。記念事業として、各地の祭りや郷土芸能に光を当てる「杜の賑わい」を初開催したことを皮切りに、さまざまなCSR活動が生まれていった。「杜の賑わい」は今では累計開催数135回にのぼり、失われつつある日本文化の価値を再発見する大きな役割を果たしている。
「ツーリズム産業は裾野がとても広い産業です。あらゆる企業や人々の生活と関わり、社会の発展や安定のためにできることを考えてきた結果、当社のCSR活動の領域も自然と広がっていきました」と中村氏が語るように、同社の取り組みは自ずとSDGsの達成に大きく資するものであることが多い。また、社員がCSR活動に参加する機会が豊富で、企画に携わる場合もあるため、CSRが身近なものとなっている同社の文化が、社会貢献やSDGsへの意識に自然とつながっているようだ。
「地球環境の維持や社会の安定がツーリズム産業にとって不可欠である一方で、ツーリズム産業にはそのような社会課題を解決する力もあります。今や世界がSDGsを意識せざるを得ない状況の中で、ツーリズム産業とSDGsを両輪に、当社の田川博己取締役相談役が提唱する5つの旅の力(文化・経済・教育・健康・交流)を駆使し、これからも地域の活力を一緒に生み出していきたいと考えています」
コロナ禍の影響で観光業が大きな転換期を迎えている中でも、同社に根付く「人との交流」を大切にする思いは揺らいでいない。「旅は人生の潤いの一つであり、これからも無くなることはないでしょう。今後はデジタライゼーションとリアルな体験の相互活用を進めていきますが、五感で感じることが旅行の醍醐味である以上、感動を届ける最後の瞬間には私たち社員がそばにいることが、これからも当社の強みと誇りであり続けます」と中村氏。
旅行業のリーディングカンパニーとして、これからも業界を先導する役割を果たしていくことが期待される。

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  • 株式会社JTB  広報室担当部長
    中村弘子 氏

自治体と企業をつなぐ「ふるさとコネクト」

 そんなJTB社が2020年4月に立ち上げた企業版ふるさと納税のポータルサイト「ふるさとコネクト」は、CSR・SDGs活動に取り組む企業をサポートするサービスとしても注目されている。企業版ふるさと納税(正式名称:地方創生応援税制)とは、2016年度に内閣府主導により制定された地方創生施策で、2020年4月の税制改正以降、企業は実質1割負担で自治体が取り組むプロジェクトへの寄附が可能だ。
サービス運営に従事するふるさと開発事業部営業推進課長の永井大介氏は、「ふるさとコネクト」立ち上げの経緯を、自治体と企業の関係の課題から語る。「私は長年当社で法人営業に従事してきた中で、大規模な社員旅行が地方の宿泊施設に泊まるだけで終わってしまい、自治体との関係づくりにつながらないことに課題を感じていました。一方で自治体は財源獲得やプロジェクト実行に課題を持ちながらも、企業との接点がほとんどないために、効果的な動きができていませんでした。そこで、自治体と企業の交流を活性化し、互いの情報が行き来する場をつくることで社会貢献をしたいという思いで立ち上げたのが『ふるさとコネクト』です」 。まさに、全国で旅行業を展開する中で多くの自治体や企業とつながってきた同社だからこそ取り組めるサービスと言えるだろう。
自治体が取り組むプロジェクトはまちづくりから働き方改革、スポーツチームの立ち上げまで多岐にわたっており、企業の関わり方もさまざまだ。「協働や実証実験の場としての活用以外に、研修旅行で自治体を訪れることもあり得ます。それによって社長だけでなく社員もその地域の魅力や課題を意識するようになり、結果としてヒト・モノ・カネが自治体に回る一つのCSR活動にもなるのです」と永井氏。また、「ふるさとコネクト」ではプロジェクトごとに関連するSDGsのアイコンを紐付けており、自治体と企業のコミュニケーションを円滑にしている。
「ふるさとコネクト」は最低10万円の小口寄附から受け付けている。これは、中小企業でも気軽に寄附ができる文化をつくるためだ。永井氏は「社会貢献や地域貢献を堅苦しく考える必要はありません。無理のない範囲で、思い立ったら寄附ができるような環境が大切だと思っています。災害時以外にも自然体で寄附ができたら良いですよね。そのような寄附の文化をつくる手助けをしたいと思っています」と、寄附文化への思いを語る。
サービスの立ち上げから数ヶ月、「ふるさとコネクト」には現在39件(2020年8月現在)の自治体のプロジェクトが掲載されている。今後は、寄附を通じてつながった自治体と企業のその後の変化までを伝えていくことが目標だ。「ふるさとコネクト」をきっかけに、自治体と企業の新しい関係が生まれようとしている。

永株式会社JTB ふるさと開発事業部営業推進課長 井大介 氏

株式会社JTB ふるさと開発事業部営業推進課長
永井大介 氏

地域課題の解決を徹底サポートする「river」

 気軽かつ簡単に寄附ができる「ふるさとコネクト」と比べて、大口寄附による自治体のプロジェクトへの本格的な参画をサポートするサービスが、同じく2020年4月に立ち上がった企業版ふるさと納税の相談プラットフォーム「river」だ。同サービスには、課題を抱える自治体と企業をつないで企画立案をする「コーディネータ」や、企画を推進する「サービス提供事業者」が登録しており、企業版ふるさと納税の活用を目指す自治体と企業は、より効果的に課題を解決することができる。
「『river』という名の通り、企業の金銭的・人的リソースを社会の隅々まで行き渡らせ、地方の課題解決につながるようしっかりと循環させていきたい。その先に、私たちが目指す『レジリエント(柔軟)で持続可能な地域社会』があると考えています」と語るのは、同サービスを運営する株式会社カルティブの小坪拓也氏だ。小坪氏は、企業版ふるさと納税コンサルタントとしてこれまでも制度活用の促進に尽力してきた経験から、『river』の運営において大切にしていることを次のように語る。
「企業版ふるさと納税は、直近の税制改正によってそのお得さが注目されていますが、もともとは地方創生やSDGsの文脈の中で生まれた制度です。だからこそ、企業が地域に貢献をしていく『ストーリー』と、寄附後も続いていく『つながり』を私たちは大切にしています」
サービス開始後、コーディネータの増員や市場拡大に取り組み、自治体と企業のデータを集めている「river」。「最終的な目標は文化をつくることです。創業地や工場建設地等のつながりから企業が地域の課題に向き合い、『この地域は私たちが守る』と言えるくらいの文化を持つ企業が増えてほしいですね」と、小坪氏は企業版ふるさと納税の活用に地域社会の未来を見ている。

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