企業と購入者の意識改革が推進するサーキュラーエコノミー

持続可能な地球のために「購入」にスポットを当て、率先して取り組むグリーン購入ネットワーク(以下、GPN)。その代表理事である則武祐二氏にインタビュー。サーキュラーエコノミーに対する企業の在り方などについて伺った。

グリーン購入ネットワーク代表理事 則武祐二氏GPN 代表理事 則武祐二氏

2040年までに人工物は地球上の生物量の3倍に

――GPNでは2021年度の方針に「持続可能な調達(消費と生産)の推進を通じて、カーボンゼロ、SDGs、サーキュラーエコノミーの実現に貢献します」を掲げられました。「サーキュラーエコノミー」を方針に入れられた理由についてお聞かせください。

 資源の有効活用は、地球環境や社会が持続可能であるためにどうしても欠かすことはできない重要課題と捉えて入れています。
 昨年末に科学誌「Nature」で発表されたイスラエルの研究者の論文には、地球において、人類がつくったコンクリートやプラスチックといった人工物の質量が2020年、全生物の質量を上回ってしまうという衝撃的な内容が記載されていました。研究者らは、人工物がこのまま増加していくなら、2040年までに地球上の生物量の3倍にもなってしまうとも予測しています。CO2ほど影響に関する科学的なデータは揃っていませんが物量的には容量オーバーになっているのは事実だと思います。
 そういったことも踏まえ、GPNの活動の基本は「グリーン購入を通して」ですので、持続可能な購入活動の普及をこれまで以上に推進していかなければいけないと思っています。GPNはいろいろな業種の企業が加入しています。我々のネットワークを通じて、購入者と企業が資源循環を考え、人工物を増やすのではなく、減らす方向にシフトしなければ持続可能にならないことを皆が共有しなければならない時が来ています。

動向の正しい理解と明確な発信がGPNの課題

――今年度、GPNはサーキュラーエコノミーや資源循環型経済の実現にむけて、どのようなところに力を注いでいこうとお考えでしょうか。

 今までと同様、刻一刻と変化する国内外の市場や政策の動向を捉えていく必要があります。そのためには有識者と意見交換なども実施し、それらを我々が、正しく理解していかなければならないと考えています。
 その上で内容を精査・整理し、会員の企業や団体に対して、明確に発信していくことには今まで以上に力を入れていきたいと思っています。
 たとえばサーキュラーエコノミーの本質からいえば海洋汚染やマイクロプラスチックの問題はもちろん重要ですが、あくまでもそれは一部分です。本来着手すべきは、サーキュラーエコノミーの「エコノミー」の部分です。つまり経済的にどういう対応が求められるか、になります。そのことについては十分な議論が日本ではまだなされていないという認識を私は持っています。
 そういった内容も含めて、セミナー等で我々が正しい情報を伝えていくことも必要ですし、ディスカッションの場もあれば好ましいと思っています。またGPNにとどまらず、他の団体を交えてセミナーやディスカッションの機会を持ち、お互いに理解を深めていきたいですね。

購入のその先に循環の輪を広げていく

――企業がサーキュラーエコノミーを推進するにあたり、想定される課題にはどのようなものがあるとお考えでしょうか。

 今、社会ではサーキュラーエコノミーと資源循環の概念が混在しているように思います。サーキュラーエコノミーには資源だけではなく、商品そのものの長期使用も含まれます。つまり、そこでは資源だけではなく、商品そのものにスポットが当たることで、それを生み出す経済や企業との関わりも重要視しています。
 その視点に立てば「長く使える」「もう1度使える」ということが今後のモノづくりにおいては前提になってくるでしょう。
 また、商品開発だけではなく、回収できる仕組みも併せて考えながら、商品・サービスをつくっていくことも課題になります。長期使用と回収は両輪のような関係にあります。エンドユーザーのところに商品を届けて終わりではなく、その先の循環の輪を広げていくことがサーキュラーエコノミーの推進では欠かすことはできません。

急務なのは動脈産業と静脈産業の連携強化

――サーキュラーエコノミーの形成とビジネスの成長を両立させていくための鍵は何であるとお考えでしょうか。

 技術面では、今、世の中に存在するものでほぼ対応が可能だと思います。しかし、循環の流れを経済社会の中で円滑にしていく上では新たなことに着目すべき段階に入っています。
 それは動脈産業と静脈産業の連携です。従来の製造工程からエンドユーザーへの提供という上流から下流までの動脈産業と廃棄物の回収や再利用を担う静脈産業とのパイプの強化が鍵になります。さらにそれを経済的に実現していくためには購入者の意識の変革も必要です。その両方が揃うことで初めて経済的にも物理的にもサーキュラーエコノミーが成り立ちます。
 プラスチックを例にするなら、市場に出て購入された商品を回収するには購入した人の手を借りなければいけません。しかし、購入者はわざわざ手を煩わせることはしないでしょう。だからこそ、そういった行動を起こさせる意識の改革が必要になります。
 また上流側の材料メーカーも、静脈産業の方々が戻しやすいような材料をつくり、それを製品メーカーが活用する設計をしていけばサーキュラーエコノミーは加速していくことでしょう。その流れを実現していくには動脈産業の上流から下流までと静脈産業のコミュニケーションが大切になっていきます。

――則武様はリコー でサステナビリティ推進本部顧問なども経験されました。リコーのコメットサークルのように自社領域だけでなく、その上流と下流を含めた製品のライフサイクル全体で環境負荷を減らしていくには何が重要になるとお考えでしょうか。

 コメットサークルは1994年に提唱した持続可能な社会実現のためのコンセプトです。サーキュラーエコノミーの事例として、最近もヨーロッパで取り上げられています。今のサーキュラーエコノミーの図にかなり近いものが描かれています。
 幸いリコーの複写機ビジネスは回収を前提としたビジネススタイルでした。そういう背景があったからこそ、コメットサークルを生み出すことが可能になったと思います。それを実施していく上ではどうしても材料の調達先や廃棄物を扱う静脈産業の皆さんの理解が必要でした。また購入者も含めたステークホルダーの考え方が持続可能な方向に向かって行き、パートナーと考えを整合して進めていくことが大事だと思っています。

――本日はありがとうございました。