「過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目になります。非人間的な行為を心に刻もうとしない者は,またそうした危機に陥りやすいのです。」
(リヒャルト・カール・フライヘア・フォン・ヴァイツゼッカー『荒れ野の40年』岩波書店,1986.2,p.16)

先日、国会で「戦後残してきた難題に答えをだす」と言う言葉を聞いた。ふと、ヴァイツゼッカーのこの言葉を思い出した。いまから38年前の1985年5月8日、旧西ドイツのヴァイツゼッカー大統領がドイツの敗戦40周年を記念して行った演説の一節である。

そして、わが国の空虚な国会演説を聴きながら、はたして、日本には、彼のような政治家はいないのだろうかと、ふと寂しく思い、彼我の差を、心底、恥じた。

同時に、この世界には、地球の裏側に、しっかり戦後残してきた難題に真正面から向きあい、真摯に具体的な答えをだしてきた国があることを思った。日本と同じ立場だった敗戦国ドイツである。

そして、はたして、日本は戦後に真摯に向き合ってきたのか疑問に思った。同時に、日本には、まだ、未回答の「戦後残してきた難題」が山積していると思った。

決して過去2回通算8年間ドイツに住んでいたからと贔屓目で述べるつもりは毛頭ないのだが、そのドイツが、戦後残してきた難題に、真摯に答えをだしてきた具体的なエビデンスをfactに基づいて列挙してみたのが、以下である。

<ドイツの戦後の課題解決行動の一例>
①ドイツが起こした戦争責任に対する徹底的な反省と引き受け。ホロコースト責任者の時効なき追求。
②近隣国との友好促進と具体的共同成果。EU形成への中心的献身的な尽力。
③米国のイラク戦争への毅然とした反対意思表明。NOはNOとはっきり毅然と明言できる主体性。
④原発廃止とエネルギーシフトについてしっかり国民の意見を集約し、その実現のための法制化と遂行。 再生可能エネルギー100%に向けた率先垂範。
⑤責任の明確化。責任の所在を曖昧にせず透明性を担保し、ごまかさない徹底した対応。
⑥健全な批判精神を実践しているジャーナリスト等マスコミの健在と徹底した取材と透明性。
⑦大学の学費無料。受験なし、塾なしのため、受験準備費用負荷皆無。(注)
⑧ドイツの年間労働時間は、1356時間。ドイツの時間当たり労働生産性は、76.0ドル。OECD加盟38カ国中12位。ドイツの1人当たり労働生産性は、107,908ドル。OECD加盟38カ国中15位。ドイツの製造業の労働生産性は、99,007ドル。

(注)ドイツは大学入学のための試験はなく、代わりにAbitur(卒業資格試験)があり、その点数によって、希望の大学に願書が出せるかどうかが決まる。また公立学校に行くために授業料がかからず、大学に払うお金は(公共交通機関のための定期も込みで)一学期に 1 万円程度。上記の記述は、ドイツ在住の複数の友人から伺って居る実体験に基づくデータもほぼ同様である。

方や、肝心のわが国日本の行動はどうだったのだろうか。同じ敗戦国としての「戦後残してきた難題」への向かい方の両国の相違が浮き彫りになって実に興味深い。上述のドイツの項目に則して、それぞれ、具体的に、比較検証してみよう。

<日本の戦後の行動の一例>
①日本自らが起こした戦争責任に対する曖昧化。なんら謙虚な反省もなき厚顔無恥な責任回避の欺瞞。
②近隣国の中国や韓国への敵視姿勢へのこだわり。歴史修正への異常な固執。
③米国への無批判な隷従。貢物的な米国から兵器大量購入。トランプへの過剰な蜜月演出の愚行。
④原発依存への病的固執。再生可能エネルギー100%への消極性。軍備拡張・防衛費倍増との連動。
⑤無責任体制。責任回避の定常化。問題隠蔽。原発事故責任者や証拠隠滅をさせた行政当事者等に対する無罪判決。モリカケ桜問題で縁故主義が露呈。国会での虚偽発言が定常化し、無神経な公文書・統計改ざんの横溢。官僚人事権を掌握し官僚制度を破壊、天下り復活。国民の同意なき、既得権益層優先政策の横行。鉄道利権誘導型リニア新幹線の強行着工。原発利権誘導の原発再起動・新設の強行。
⑥スポンサーや政府に忖度し、しっかりした批判精神を行動に移せない壊滅状態のマスコミ。茶飯事と化した間断なきCMの洪水と、何も考えない国民製造装置と堕したバラエティー番組等の皮相的で軽薄至極なテレビ。
⑦大学の学費有料。国立50万円~、私立80万円~(理系;150万~)受験準備費用負荷あり。中学受験準備費用は、小学校4年~6年で、塾代平均月3~5万程度。高校、大学受験準備費用は、塾代平均月3万~5万程度。
⑧日本の年間労働時間は、1710時間。ドイツより年間350時間も労働時間が長い。方や、日本の時間当たり労働生産性は、49.5ドル。OECD加盟38カ国中23位。日本の1人当たり労働生産性は、78,655ドル。OECD加盟38カ国中28位。日本の製造業の労働生産性は、95,852ドル。OECDに加盟する主要31カ国中18位。

むろん、すべてドイツが素晴らしいとは思っていないし、ドイツにも問題は山積だし、内外からの批判も多い。一方で、日本も素晴らしい魅力はたくさんあるし、祖国日本を大好きであることには、変わりない。しかし、先の国会の演説を耳にし、相当不快な違和感を伴う失望感を感じ、「戦後残してきた難題」には、もっと大事なことがあるだろうと、指摘したく思い、上記の客観的なfactに基づいた日独比較データを論点整理してみた次第である。

生来、人間として、傲慢不遜で謙虚さが欠落した人間が嫌いだった。実力以上に自尊心や虚栄心ばかり強く、その上、実は結構内心臆病で小心者であり、おそらく、それゆえに、権力にこび、ヒラメみたいに上ばっかり見てて、自分自身では主体的に何も考えることなく、ただ、自分が力のあると思っている存在に無批判にヘイコラと隷従し、方や、自分より力が下だと思っている存在に、やたら「上から目線」で、横柄で傲慢な人間が大嫌いであった。人間なんて、誰だって欠点もあるし、所詮五十歩百歩、同じじゃないか。それを、なんで、虚勢をはるんだろう。mountingして、無理して粋がって何が好いんだろうかと、その精神の貧困を、いつも不快に思っていた。

しかし、こうして、日独比較を改めて冷静に拝見すると、ナント、愛すべきわが日本が、その軽蔑すべき人間の典型に堕しつつあることが浮き彫りになっていることに気付き、その国家としての品格と尊厳の不在を、内心、寂しく思い、同時に、羞恥と不快を覚えている。