特定非営利活動法人日本環境倶楽部は、第15回生物多様性条約締約国会議 第2部(2022年12月開催)での議論と成果についてレビューするウェビナーを1月25日に開催し、「生物多様性条約COP15の結果等」と題して環境省 自然環境局 生物多様性戦略推進室 室長 山本 麻衣氏が講演を行った。ここではその概要を紹介する。

生物多様性の持続には社会変革が急務な世界情勢

まず生物多様性をとりまく世界情勢について紹介する。生物多様性という自然資本はSDGsの基盤であり、その土台が崩れるとすべてが崩壊し、またその上にある社会資本を担様々なステークホルダーの取り組み影響を受ける構図があり、それに関し、様々な警鐘が鳴らされている。そしてここ数年、多くの報告書がCOPの世界枠組みの策定に貢献している。

「IPBES 生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」は自然がもたらすものは世界的に劣化、自然変化を引き起こす要因は過去50年間に加速していると報告。

直接的な要因のうち、最も影響の大きいものは①陸域・海域の利用の変化、②生物の直接採取、③気候変動、④汚染、⑤外来種の侵⼊となる。このままでは、生物多様性保全と持続可能な利用に関する国際的な目標は達成できず、目標達成に向けては横断的な「社会変革(transformative change)」が必要となる。また愛知目標のほとんどの個別目標についてかなりの進捗が⾒られたものの、20の個別目標で完全に達成できたものはない。

さらに20021年2⽉、ケンブリッジ大学のパーサ・ダスグプタ教授が、生物多様性の経済学に関する中⽴かつグローバルなレビューとして公表した「生物多様性の経済学に関する最終報告~ダスグプタ・レビュー」では我々の需要は、自然の供給⼒を⼤幅に上回り、 世界が現在の生活水準を維持するためには、地球1.6 個分が必要と報告。自然との持続的な関係を築くには、我々の考え方、⾏動、経済的な成功の測定方法を変える必要があると述べている。

2021年5⽉、Finance for Biodiversity (F4B)イニシアティブが公表した「The Climate-Nature Nexus:Implications for the Financial Sector」では気候と⾃然を別々に捉えるのではなく、統合的に考慮する必要があることを説明している。

「生物多様性と気候変動に関するIPBES-IPCC合同ワークショップ報告書」では気候と生物多様性の間には複雑な相互作用があり、生物多様性は人や生態系が気候変動に適応する助けになること、また、気候、生物多様性と人間社会を一体的なシステムとして扱うことが効果的な政策の鍵であるなど指摘している。

そういった中「ポスト2020⽣物多様性枠組」に陸と海の30%以上の保全を位置付ける30by30目標に関する動きが活発化。日本も30by30目標に賛同し、また、包括的な内容を含む首脳級のイニシアティブにも参加している。この30by30目標は枠組みの中にも盛り込まれている。

自然を回復軌道に乗せる緊急行動がミッション

次に今日の本命であるCOP15の結果と「昆明・モントリオール生物多様性枠組」について紹介する。生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)2022年12月7日から19日、カナダモントリオール)で中国を議長として開催された。

そこでは2030年までの新たな世界目標である「昆明・モントリオール⽣物多様性枠組」が採択された。また「グローバル⽣物多様性枠組基⾦」や遺伝資源のデジタル配列情報(DSI)では「多数国間メカニズム」を設置などが決まった。

また⻄村環境⼤⾂が政府代表団⻑として交渉に参加。2023年から2025年にかけて1,170億円規模の⽣物多様性関連の途上国支援を新たに表明し、「⽣物多様性日本基⾦(JBF)第二期」による途上国支援の実施開始、SATOYAMAイニシアティブの推進について表明した。

新しい枠組については長く議論がされてきた。COP14が終わってから本格的な議論が始まり、4年に及ぶ議論となる。その間、公開作業部会OEWJが何度も開催され、COP15の直前の3日間、OEWJ5が行われた。枠組みの文書は10数ページであるがそこに至るまでにはブラケットという様々な未決定の数字や文言が( )でつけられている。昨年9月の段階で約1500あった。その( )を外していくための議論がOEWJからCOP15に入ってからも行われた。そしてCOP15最終日前日の18日朝、議⻑から主要議題である新枠組・資源動員・DSI等の主要6文書に関する議⻑提案素案が公表。19日午前3時、主要6文書がパッケージとして採択された。

新枠組はビジョン、ミッション、ゴール、ターゲットの構造があり、2050年ビジョンとしては愛知目標を受け「自然と共生する世界」が掲げられている。ビジョン実現のためのミッションとでは「自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を⽌めて、反転させるための緊急の⾏動をとる」があり、内容としてはネイチャーポジティブと同義の行動を呼びかけている。2050年のゴールはABCの3つが定められ、Aは生態系の保全に関し、Bは生物多様性の利用について、Cは遺伝資源のデジタル配列情報(DSI)におけるアクセスと利益配分、Dは実施手段に関わるゴールが設けられている。さらに23のターゲットがある。

今回の枠組では30by30目標、劣化した自然地域の30%の再⽣、外来種定着の半減等の保全に関する目標、 ビジネスにおける影響評価・情報公開の促進に関わるビジネス、主流化に関する目標、自然が持つ調整⼒を防災・減災等に活⽤していく自然を活用した解決策(NbS)に関する目標がポイントになる。

世界目標から地域目標まで整合・一貫した取組が重要

次に我が国の生物多様性国家戦略の改定について説明する。

生物多様性条約第6条において生物の多様性の保全及び持続可能な利用を目的とする国家的な戦略若しくは計画を作成することが明記されている。我が国の国家戦略は今まで5回改定され今回が第6次となり、今3月の閣議決定を目指し準備が進められている。

次期生物多様性国家戦略は新たな世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」に対応し、地球の持続可能性の土台・人間の安全保障の根幹となる生物多様性・⾃然資本を守り活用するための戦略となる。そこでは生物多様性損失と気候危機の「2つの危機」への統合的対応、新型コロナウイルス感染症のパンデミックという危機を踏まえた社会の根本的変革が強調されている。また30by30目標の達成等の取組により健全な生態系を確保し、生態系による恵みを維持回復と⾃然資本を守り活かす社会経済活動の推進が述べられている。

構成としては2050年ビジョン『⾃然と共生する社会』と2030年に向けた目標:ネイチャーポジティブ(⾃然再興)の実現、5つの基本戦略とその下に25ある⾏動目標ごとに、関連する施策を掲載し、政府一丸となって推進する行動計画からなっている。

基本戦略は自然に関する分野を大きく広げ、経済や気候変動との関連にも言及されている。

ポスト枠組及び次期国家戦略の目標達成には、国、地方公共団体、⺠間、個人の⼒の結集が必要。世界目標から地域目標まで整合・一貫した取組が重要となり、地域における取り組みを担う地⽅公共団体や地域の⺠間企業・団体の役割は⼤きい。